明嬢

Open App
6/26/2024, 12:33:21 PM

君と最後に会った日は
いつだったか覚えてないけれど
大まかな時間帯と
君と話した場所と
君が着ていたTシャツの色と
君の眩しい表情と
君と話した内容はちゃんと覚えていて
今でも心に残っているんだよ

今君はどこでなにをしていますか
……いやいいです
元気でいてくれたらそれでいいです
あの眩しい表情で笑ってくれてたら尚いいです

『いつか、また』

5/28/2024, 11:02:20 AM

半袖

「そろそろ衣替えの季節かなあ」
誰かに言うでもなくただ呟く。
でも、それを聞き逃さずにしっかりと答えてくれる人がいる。
「ああ~、暑いもんねえ最近」
「でも、朝は寒いからなかなか踏み出せない」
「そうねえ、カーディガンでも羽織っておけばいいんじゃない」
「確かに……。あ、でも私に半袖似合わないんだよね」
「…そう?可愛いと思うけど」
「なんか、合わない。長袖の方が好き」
「でも、暑いのは嫌なんでしょう?」
「半袖…半袖かあ」
結論は出てるのに、同じことを何度も何度も繰り返してしまう。
呆れられないからその優しさに付け込んでしまう。
分かってる、いい加減離れるべきなのは。
3年前からずっと変わらずに半袖を着ている君が、本当はもうこの世にいないことも。
でも、だから、半袖を着ると考えるんだ。
あの日の君がどんな気持ちだったのか。
そして、半袖を着るのは躊躇ってしまう。
毎年、この会話を繰り返しているのもそれが理由だ。

『袖を通せない』

5/7/2024, 11:06:17 AM

「なあ木島」
「なんだよ、月浦?」
「もしさあ、明日世界が終わりますって言われたらどうする?」
「どうする?……うーん、まずは母ちゃんと父ちゃんに感謝の気持ち伝えて、謝りたい人に会って謝って、後は中学とかの友達に会ってさよならをして、そしたらお前に会って言いたいこと言って…で、終わりかな。そんくらいできたらもう、悔いはないかな」
「ふーん、意外と人との繋がりを大事にしてるんだな、お前って」
「なんか気恥ずかしいな、そういうお前はどうするんだよ」
「俺?俺は……考えてない」
「はあ?おまっ、人に聞くだけ聞いて自分の考えはないのかよ?」
「いやあ、ごめん考えてなかったわ。まあ、一個だけあるけど…お前には言えない」
「何!?親友の俺に言えないだと!」
「お前、だからだよ」
「えーつまんねえ、なんでだよ~」
「本当にそうなったら、言うよ」
「あるわけねえだろ、明日世界が終わりますなんて」
「ふふん、この考えは墓場まで持ってくぜ」
「そーかよ」

言えるわけ無いだろう。
お前のこと好きになっちゃったなんて。

『言えない』

5/4/2024, 11:06:31 AM

「…やちゃん……あやちゃん…ねえ、あやちゃんってば」

――ピピピピピピピピッッッッ!!!
―ガチャッ

「ふわあ…あぁ、よく寝た」

そういえば夢の中で何度も名前を呼ばれた気がする。
でも、声も顔も思い出せない。
まあいい。
朝食を摂るべく私はリビングへ向かった。

今日から高二の新学期が始まる。
クラス替えに少し不安はあるが、きっと大丈夫だと得体の知れない自信があった。

いつもより少しだけ早く家を出て、馴染みの通学路をゆったりと歩く。
春の暖かな匂いが鼻腔を抜ける。

学校のしだれ桜が見えてきた。
今年も目を奪われるほどの満開だ。
靴箱に向かうと、大勢の人だかりで一瞬入るのを躊躇った。
が、その中に見知った顔を見つけて思わず側に行ってしまった。

「おはよう、真奈!」
「文?!おはよう!久しぶり」
「ね、久しぶり。クラス替えもう見た?」
「いやー、この人だかりで靴すら履き替えられてないよ」
「あーそうだよね。ふふ、真奈と一緒になれるといいなあ」
「あたしも文と一緒がいいなあ」

人だかりが空いてきたのを見計らって、掲示板を見に行った。
私は二組の所に名前を見つけた。そしてその下に真奈の名前もあった。

「真奈!あったよ、今年もクラス一緒だ!!」
「ほんとだあった!やったね」

とりあえずクラスで孤立する心配が無くなり私たちは周りを気にせず歓喜した。
その後、面倒臭い始業式を終えて教室に戻る。
担任の先生は去年と同じ先生で安心した。
家に帰る前に真奈と少し遊んでから帰った。
家に帰って、お母さんに今日の出来事を話す。

「あら、真奈ちゃんと同じだったの?良かったわねえ」
「うん、修学旅行が楽しみだよ」
「まだ四月よ。修学旅行は十一月でしょう」
「えへへ、楽しみすぎて」

今日は本当にいい日だった。
明日もきっといい日だろうと眠りについた。


「あやちゃん……私のこと忘れちゃった?」

誰?なんだか懐かしい声がする。

「あやちゃん、あの約束はどうなるの……」

ねえ、あなたは誰?あの約束?

ピピピピピピピピッッッッ!!!
――ガチャッ

目を開けるとぼやけていた視界がクリアになってきた。
体を起こすと、涙が流れていることに気がついた。
今日はどんな夢を見たのだろうか。
悲しい夢でも見たのだろうか。

ゴシゴシと拭うと、支度をした。

学校に着いて、教室に向かう。
その間で真奈と合流した。

「ねえ、あやや聞いた?うちらのクラスに転校生が来るんだって」
「へえ、聞いてないや。で、あややって誰よ」
「文の新しい呼び名!」

そんな他愛もない会話をしていたら、いつの間にか教室に着いていた。
クラスでは転校生の話で持ち切りだった。

先生が教室に入ってくると、皆席についてソワソワしていた。

「えー、もう知っているやつも多いと思うが今日は転校生を紹介するぞ」

クラスはより一層盛り上がった。

「静かにしろー、転校生びっくりしちゃうだろ」

クラスが落ち着いてきたのを見計らって、先生が中に入れた。

「よし、入ってきていいぞー」

ガラガラとドアを開けて中に入ってきたのは、控え目で大人しそうな女の子だった。
すごく懐かしいと思った。

「渡辺香澄です。よろしくお願いします」

男子は女の子であることにすごく歓喜していた。女子も性格が良さそうな子が来て、安堵していた。

「じゃあ席はそこの村田の隣な」

昨日から気になっていた空いている隣の机はそういうことだったのか。

「よろしくね香澄ちゃん」
「よろしく、文ちゃん」

やはり、声に懐かしさを感じた。
あれ、下の名前なんで知ってるんだろう?

「下の名前教えたっけ?」
「……やっぱり覚えてないか」
「もしかしてどこかであったことある?」
「うん、でも、気にしないで。すごく前のことだから」

胸に重りを引きずるような気分だった。
まあ、いっか。

家に帰ってお母さんに転校生が来たことを話した。

「え、香澄ちゃん?あら懐かしいわね」
「お母さん知ってるの?」
「知ってるもなにも、あなた覚えてないの?」
「なんのこと?」

私と香澄ちゃんは幼稚園の時、一番の仲良しだったらしい。
いつも二人で遊んでいて、何をするときも一緒だった。
でも、ある時香澄ちゃんは親御さんの都合で遠くに行かなければならなくなったようで、私はすごく泣いたみたいだ。
そして香澄ちゃんと遊べる最後の日、私は高熱を出して何日か部屋から出られなくて結局、お別れもできずに香澄ちゃんは行ってしまった。

「あなた達本当に仲良しで、よく裏の公園で遊んでいたわよ」
「そう…だ、思い出した」

今までなんで忘れていたのだろうか。
二人で見つけた公園の秘密基地でよく遊んだことを。
そして、あの秘密基地で約束したことを。

高校生になったら、二人でまた秘密基地に来ようね。

私は急いで公園に走っていった。

『思い出して』

4/14/2024, 2:26:21 AM

カーテンの隙間から差し込む光で目を覚ます。
シャッとカーテンを開けると、澄んでいて綺麗で真っ青な空が広がっていた。
まるで地球を呑み込んでしまいそう。
ふとそう思った。
「そろそろ起きなさーい!」と母の呼ぶ声が聞こえてきて返事をする。

身支度を少しして歓談を降りる。
朝ごはんのトーストが焼ける匂いに包まれたリビング。
テレビでは天気予報が写し出されていた。
今日は夕方から雨が振るらしい。
母が作ってくれたお弁当を鞄に入れ、家を出る。
天気予報を思い出し傘を手に取り歩き出す。
学校に近づくにつれ、人が増え出す。
思いの外、傘を持っている人が多くて安心した。

夕方本当に雨が降った。
ザーザーと土砂降りの雨である。
傘を持ってきていない人は可哀相なくらいだ。
委員会の仕事もないため、早く帰ろうと靴箱に向かう。
靴箱で靴を履き替えて傘を探す。
しかし無いのだ。自分の傘が。
入れる場所を間違えたのかと探してみても無いのだ。
名前も書いていなかったから、バレないと思われて盗まれたのだろう。
家までは徒歩で10分ほど。
歩いて帰れないほどではない。
しかし、この雨だと走っても鞄の中身はびしょびしょになるだろう。
スマホでこの先の天気を確認すると、夜までは止まないそうだ。
諦めて走って帰ることにした。
少し雨足も落ち着いてきた頃だし、ちょうど良かったのかもしれない。
鞄を前に抱えて走り出した。
なんとか家に帰り着いたが、制服は重く、髪からは水が滴り、鞄の中身は少しだけ濡れていた。
リビングのソファでくつろぐ前に風呂に入り、体を暖めた。
テレビを見ていると、母が帰ってきた。
「あんた、傘持っていってなかったの?」
と聞かれ、学校であったことをそのまま話す。
「そうだったの。でも、連絡してくれたら迎えに行ったのに」
その手があったかと、思い付かなかった自分に落胆する。
次からはそうしようと心に決めた。

次の日の朝、カーテンを開けると昨日の朝と同じ空が広がっていた。
澄んでいて、綺麗で、真っ青な空が。
快晴だが、昨日びしょ濡れになったことを思い出して恨めしくなった。
今日の天気予報はずっと晴れだそうだ。
放課後の予定は無い。
散歩でもしてから帰ろうと思った。

『晴れの日』

Next