明嬢

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「…やちゃん……あやちゃん…ねえ、あやちゃんってば」

――ピピピピピピピピッッッッ!!!
―ガチャッ

「ふわあ…あぁ、よく寝た」

そういえば夢の中で何度も名前を呼ばれた気がする。
でも、声も顔も思い出せない。
まあいい。
朝食を摂るべく私はリビングへ向かった。

今日から高二の新学期が始まる。
クラス替えに少し不安はあるが、きっと大丈夫だと得体の知れない自信があった。

いつもより少しだけ早く家を出て、馴染みの通学路をゆったりと歩く。
春の暖かな匂いが鼻腔を抜ける。

学校のしだれ桜が見えてきた。
今年も目を奪われるほどの満開だ。
靴箱に向かうと、大勢の人だかりで一瞬入るのを躊躇った。
が、その中に見知った顔を見つけて思わず側に行ってしまった。

「おはよう、真奈!」
「文?!おはよう!久しぶり」
「ね、久しぶり。クラス替えもう見た?」
「いやー、この人だかりで靴すら履き替えられてないよ」
「あーそうだよね。ふふ、真奈と一緒になれるといいなあ」
「あたしも文と一緒がいいなあ」

人だかりが空いてきたのを見計らって、掲示板を見に行った。
私は二組の所に名前を見つけた。そしてその下に真奈の名前もあった。

「真奈!あったよ、今年もクラス一緒だ!!」
「ほんとだあった!やったね」

とりあえずクラスで孤立する心配が無くなり私たちは周りを気にせず歓喜した。
その後、面倒臭い始業式を終えて教室に戻る。
担任の先生は去年と同じ先生で安心した。
家に帰る前に真奈と少し遊んでから帰った。
家に帰って、お母さんに今日の出来事を話す。

「あら、真奈ちゃんと同じだったの?良かったわねえ」
「うん、修学旅行が楽しみだよ」
「まだ四月よ。修学旅行は十一月でしょう」
「えへへ、楽しみすぎて」

今日は本当にいい日だった。
明日もきっといい日だろうと眠りについた。


「あやちゃん……私のこと忘れちゃった?」

誰?なんだか懐かしい声がする。

「あやちゃん、あの約束はどうなるの……」

ねえ、あなたは誰?あの約束?

ピピピピピピピピッッッッ!!!
――ガチャッ

目を開けるとぼやけていた視界がクリアになってきた。
体を起こすと、涙が流れていることに気がついた。
今日はどんな夢を見たのだろうか。
悲しい夢でも見たのだろうか。

ゴシゴシと拭うと、支度をした。

学校に着いて、教室に向かう。
その間で真奈と合流した。

「ねえ、あやや聞いた?うちらのクラスに転校生が来るんだって」
「へえ、聞いてないや。で、あややって誰よ」
「文の新しい呼び名!」

そんな他愛もない会話をしていたら、いつの間にか教室に着いていた。
クラスでは転校生の話で持ち切りだった。

先生が教室に入ってくると、皆席についてソワソワしていた。

「えー、もう知っているやつも多いと思うが今日は転校生を紹介するぞ」

クラスはより一層盛り上がった。

「静かにしろー、転校生びっくりしちゃうだろ」

クラスが落ち着いてきたのを見計らって、先生が中に入れた。

「よし、入ってきていいぞー」

ガラガラとドアを開けて中に入ってきたのは、控え目で大人しそうな女の子だった。
すごく懐かしいと思った。

「渡辺香澄です。よろしくお願いします」

男子は女の子であることにすごく歓喜していた。女子も性格が良さそうな子が来て、安堵していた。

「じゃあ席はそこの村田の隣な」

昨日から気になっていた空いている隣の机はそういうことだったのか。

「よろしくね香澄ちゃん」
「よろしく、文ちゃん」

やはり、声に懐かしさを感じた。
あれ、下の名前なんで知ってるんだろう?

「下の名前教えたっけ?」
「……やっぱり覚えてないか」
「もしかしてどこかであったことある?」
「うん、でも、気にしないで。すごく前のことだから」

胸に重りを引きずるような気分だった。
まあ、いっか。

家に帰ってお母さんに転校生が来たことを話した。

「え、香澄ちゃん?あら懐かしいわね」
「お母さん知ってるの?」
「知ってるもなにも、あなた覚えてないの?」
「なんのこと?」

私と香澄ちゃんは幼稚園の時、一番の仲良しだったらしい。
いつも二人で遊んでいて、何をするときも一緒だった。
でも、ある時香澄ちゃんは親御さんの都合で遠くに行かなければならなくなったようで、私はすごく泣いたみたいだ。
そして香澄ちゃんと遊べる最後の日、私は高熱を出して何日か部屋から出られなくて結局、お別れもできずに香澄ちゃんは行ってしまった。

「あなた達本当に仲良しで、よく裏の公園で遊んでいたわよ」
「そう…だ、思い出した」

今までなんで忘れていたのだろうか。
二人で見つけた公園の秘密基地でよく遊んだことを。
そして、あの秘密基地で約束したことを。

高校生になったら、二人でまた秘密基地に来ようね。

私は急いで公園に走っていった。

『思い出して』

5/4/2024, 11:06:31 AM