明嬢

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半袖

「そろそろ衣替えの季節かなあ」
誰かに言うでもなくただ呟く。
でも、それを聞き逃さずにしっかりと答えてくれる人がいる。
「ああ~、暑いもんねえ最近」
「でも、朝は寒いからなかなか踏み出せない」
「そうねえ、カーディガンでも羽織っておけばいいんじゃない」
「確かに……。あ、でも私に半袖似合わないんだよね」
「…そう?可愛いと思うけど」
「なんか、合わない。長袖の方が好き」
「でも、暑いのは嫌なんでしょう?」
「半袖…半袖かあ」
結論は出てるのに、同じことを何度も何度も繰り返してしまう。
呆れられないからその優しさに付け込んでしまう。
分かってる、いい加減離れるべきなのは。
3年前からずっと変わらずに半袖を着ている君が、本当はもうこの世にいないことも。
でも、だから、半袖を着ると考えるんだ。
あの日の君がどんな気持ちだったのか。
そして、半袖を着るのは躊躇ってしまう。
毎年、この会話を繰り返しているのもそれが理由だ。

『袖を通せない』

5/28/2024, 11:02:20 AM