明嬢

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目の前の人物は言った。
「人生に悔いはあるか」

悔い、か。
悔いなら一つだけならある。
「あるって言ったら生き返らせてくれるのか」
目の前の人物は淡々と言った。
「いいや、一度死んだ者を生き返らせる能力は私には無い」
「じゃあなんで聞くんだよ。この質問に何の意味がある?」
ふっ、と笑って
「意味など無い。ただの個人的な質問だ。人間はどんな後悔を持って死んだか興味があるだけだ。持ってない人間もたまにいるがな」
答えを聞いて、目の前の人物が人型を模したただの物体のように思えてきた。
「そーかよ」
「それでどんな悔いを持っているんだ?」
「…あるとは言ってない」
「そうか、ならば行け。そこの扉の向こうにお前の望むものがある」
示された扉のドアノブに手を掛ける。
「……中学生のとき仲が良かった奴がいじめられて、自分までいじめられたくなくていじめに加担していたんだ。自分を守るためで自分は悪くないと思ってた。でもある日そいつは自殺した。自殺したそいつの墓参りに一度も行かなかったことが俺の一つだけの悔いだ」

ガチャリとドアを開けた。


『死んだその後』

4/3/2024, 12:28:01 PM