【失恋】
僕が話しかけた言葉がきみに届いていないことなんて
僕が1番よく知っていた
それなのに時々見せる表情が
僕の為に作ったもので
僕のための言葉のように見えてしまう時がある
でも見つめ合った瞳でさえ僕のものじゃなくて
この手はいつまで経っても空を切る
きみは僕じゃなくたって同じように返すんだろう
でもどうしたって心臓がきみで動いているんだ
だからどんなに遠い存在だって気づいても
もうきみには僕が必要なくても
きみに恋をし続けててもいいですか……?
2024-06-03
【正直】
昔綺麗絵と一緒に伝え聞いた話
苦労の上に成り立つ幸せの話
そんなものはありえないと本を開いた時から知っていた
人が放つ言葉で誰かの首を絞めることも知っていたし
人が努力した労力を踏み潰す人がいることも知っていた
汚いこの世界に馴染むには
嘘を吐き続けることが正解だった
だから偽善を貼り付けた歪んだ笑顔で近づくものも
騙されたふりをして騙して
寝る前の耳鳴りのように張り付いた言葉を
必死に払い落とす
ある日汚い言葉を遮って聴こえてきた音
いつか聞いた話のような綺麗な音
そんな嘘にはとうに騙されない身体になっている
綺麗な音を浴びたってそんなものには靡かない
聴いた直後は大丈夫だったんだ
なのに、寝る前の耳鳴りが今日は聞こえなくて
あの暖かい音が代わりに流れこんでくる
その音が『嘘が下手なんだね』って奏でていった
それが夢か現実かはわからなかったけど
初めて言われた言葉だった
その言葉で本当の自分を取り戻した気さえした
次の日の朝だって、初めて朝日を迎えられた気がした
魔法にかけられたのかと疑うほど心地よい明日だった
それからこの汚い世界に
ひとつだけ本当を混ぜることにした
どんなに周りに否定されて馬鹿にされようと
『あの音が大好きだって』
2024-06-02
【梅雨】
雨音が響いて
色とりどりの傘が開く
雨音に混ざって聞こえる溜めた息
それを傍目にくるくると回る傘
雨粒が弾けて楽しげなリズムを奏でる
薄暗い世界に幸せを生む音
傘を持っていない僕は
視界を世界を遮るものがなくて
偶々その音に出会えた
じんわりと身体を包む温度でさえ
僕に何かを伝えようとしているようで
触れられないきみを感じて
この雨粒を全身で受け止めていた
2024-06-01
【無垢】
世界に産声をあげた時
きっとその声で魅了されてしまった
こんなにも透き通ったものが存在するのかと疑うほど
いくつもの壁で築かれた僕にも届いてしまう
発した言葉は全て本物で嘘をつくことがなく
言葉の本質以外なにも含まれておらず
僕を傷つけるどころか僕そのものを受け入れてくれる
その音は無垢そのもので出来ている
2024-05-31
【終わりなき旅】
目が覚めた時からひとりぼっちだった
たまに聞こえてくる罵声と
触れると殴られる感覚だけ
この暗闇の中じっと過ごしていた
そんなある日
慣れ親しんだ暗闇に隙間が空いて光が差し込んだ
その光と同時にあふれ出したメロディー
知らない色がとめどなく押し寄せてくる
メロディーの中降り立ったきみは
微動だにしない僕の両頬を掴んで引き寄せる
反射で目を閉じると呼吸が楽になる
ずっと重たかった身体が動かせるようになると
きみは僕の手を引いて光の方へと進む
触れたもので傷つけられなかったのは初めてだ
目をやられる程のまぶしさ
僕は自分の身体に無数にあるあざと
毒にむしばまれた言葉しか持っていないことに気が付いてしまった
こんな汚い手で触れてしまうなんてできないから
その手を振り払おうとしたのに
『握りしめた手は離さないから』
とどうしても離してくれない
ガラクタをかき分けて前を歩くきみが
なぜかやさしくやさしく見えたから
全て初めて受け取る感覚に身を任せていたくなった
どうして僕を連れ出してくれたのかも知らずに
それから沢山のことを教えてもらった
僕の世界はきみで出来ているといっても過言ではないほど
きみから世界を知ったんだ
まだ僕の前を歩いてくれる頼もしい背中
僕もきみになにか教えられることがあるだろうか
砂時計が減っていく中で
この一粒一粒を使って恩返し出来ることはあるだろうか
初めてきみに出会った時のあの感謝をどうやって伝えればいいんだろう
僕からきみへ贈る言葉を一緒に探してくれるだろうか
きみからもらう分、それ以上を見つける旅に
2024-05-30