【正直】
昔綺麗絵と一緒に伝え聞いた話
苦労の上に成り立つ幸せの話
そんなものはありえないと本を開いた時から知っていた
人が放つ言葉で誰かの首を絞めることも知っていたし
人が努力した労力を踏み潰す人がいることも知っていた
汚いこの世界に馴染むには
嘘を吐き続けることが正解だった
だから偽善を貼り付けた歪んだ笑顔で近づくものも
騙されたふりをして騙して
寝る前の耳鳴りのように張り付いた言葉を
必死に払い落とす
ある日汚い言葉を遮って聴こえてきた音
いつか聞いた話のような綺麗な音
そんな嘘にはとうに騙されない身体になっている
綺麗な音を浴びたってそんなものには靡かない
聴いた直後は大丈夫だったんだ
なのに、寝る前の耳鳴りが今日は聞こえなくて
あの暖かい音が代わりに流れこんでくる
その音が『嘘が下手なんだね』って奏でていった
それが夢か現実かはわからなかったけど
初めて言われた言葉だった
その言葉で本当の自分を取り戻した気さえした
次の日の朝だって、初めて朝日を迎えられた気がした
魔法にかけられたのかと疑うほど心地よい明日だった
それからこの汚い世界に
ひとつだけ本当を混ぜることにした
どんなに周りに否定されて馬鹿にされようと
『あの音が大好きだって』
2024-06-02
6/2/2024, 12:42:36 PM