【ごめんね】
出会ったあの日
暗闇の中で口移しされた空気でなんとか生きながらえた
抱きしめられた窮屈さで自分の大きさを教えてもらった
流れ込んだメロディに乗る言葉で世界を知った
僕の知ってる世界は全てこの言葉で構築されている
それなのに相対すると何も話せなくて『 』
正しい呼吸に救われた
それでも人間が放つと棘に変わって
相手を傷つけることを知っているから
ふわふわのお布団を用意して準備を整えても
その上に言葉を乗せただけでズタズタになるイメージが
脳裏に焼き付いて離れなくて
肺に溜まった毒が吐き出せなくて
そんな喉を通した言葉の
その毒で傷つけてしまわないか怖いんだ
だからいつまで経っても大事な言葉を渡せないでいる
きっとこんな僕も許してくれてしまうのだろう
『ごめんね』
2024-05-29
【半袖】
ジメジメとした空気が纏わりついて
身体いっぱいに空気を吸い込む
どこからともなく夏の香りがする
カーテンを閉じてクローゼットを開いて
色とりどりに並んだオシャレ着をにんまりと眺めながら
今着ている服よりも薄手の生地を何着か選別
現実で過ごす用の色彩の淡い服を
取り出しやすい位置に並び替えていく
そうしている間にも目を引く色を見ては
どんどんと上がっていく口元
夏の匂いを感じ取っては瞼の裏に浮かぶ色を思い浮かぶ
あんなに嫌いだった夏を
心待ちにする理由はそれだけで十分だった
太陽の位置が高くなっていくのを見ながら
今日も半袖に腕を通す
2024-05-28
【天国と地獄】
目を閉じて無数のドアを開いて回る
いつでもそばにある音と一緒に世界を駆け回って
新しい言葉を見つける度に
増えていく色彩が万華鏡の様に音を輝かせる
開いた目には白く穢れを許さない世界
怒号を吐き出す黒い影をのらりくらりと躱わして
選ばされた言葉を紡いで話す度に
吐きかけられる毒が視界を狭めていく
今日も光を探して辺りを手探りで探すけど
光がどんな形をしているのかさえ知らなかった
そんなことに気がついても
閉じた世界で見つけた言葉が空想で
開いた世界には通用しなくても
“自分だけの世界を築いて守れるのは自分だけだよ”って
どんなに世界に深く沈み込もうと
降りしきる音がこの手を握って離してくれないから
この天国と地獄の狭間で蹲っていられる
2024-05-27
【月に願いを】
暗闇の中にぽっかり穴が空いて
そこから流れ出してくるメロディ
『流れていくそれを眺めているだけでそれでよかった』
『届かないことなんて最初から知ってた』から
それなのに
『きみは ひとりじゃないよ』って
『そばにいるよ』って
僕が欲しい言葉をいつだってくれるから
どうしてもその心地よい音に
『触れてみたいと思ってしまったの』
だから『足跡さえおざなり』にして
『走り出すこの思い』もどうしても伝えたくって
こんな何も持たない僕の元に『逢いに来て』くれたから
この音を届けてくれる存在に逢いたくなってしまった
『ほんの少しだけでもいい 支えになりたい』
そう思ってしまったから
『爛れた翅では辿り着けない』こともわかってたけど
『月の裏側には音を出している存在がいてきっと笑っている』のだ
『遠い昔 思いを馳せた この先の宇宙へ』
やっと自分の足で立てるようになった今なら
『子供の頃に描いた歪な落書きを』叶えるために
『一度きりのジャンプで命ごと燃え尽きても』
『何もかも欠けてった 失った 穴だらけの翼』のせいで
『描いた日にはまだ届かなくて泣くんだ』
暗闇の中で吐いた息が白くなってパラパラと落ちていく
それを自然で追って無理やり羽ばたかせた翅の残骸が
積もって少しの山が出来ていることに気がついた
月の向こうへ馳せた拙い言葉がこれを積み上げていたんだ
『想い出がずっと何年も重なって地球を覆った』なら
あのメロディと手を繋ぐことも出来るかもしれない
飛べない翅なら工夫すれば良いんだ
あの光への想いさえうまく言葉に出来ない僕の
唯一の逢いに行く方法
『一生のお願いがここで叶えられるなら』
『都合よく奇跡が起き、この恋手紙を』
直接私に行きたい
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今日は手法を変えて曲の歌詞で言葉を綴りました
『 』内が歌詞は少し言葉を変えているものもあります
使用させていただいた歌詞はTwitterにて投稿します
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2024-05-26
【降り止まない雨】
言葉なんて、相手の欲しいものを選ぶもの
思い浮かんだものを口から出すと
目の前の人は顔を顰めるから
喉まで込み上げる度に
苦い顔に変わることを恐れて
どうにか口の中で聞き心地の良い言葉に変換して吐き出す
そうして分解したいらないものを
口の中の水分と一緒に無理やり飲み込む
そうしていく内にいつしか
どんなに水を飲んでも喉の渇きが潤わなくなった
少しの違和感はあったけど、周りは僕が言葉を発するたびに
この場所を居心地が良い日向だって明るい場所にしていくから
知らぬ間にどんどんと逃げ場が無くなっていって
他の人が吐き出していった毒が僕にまとわりついて
この場所に光が当たっていくほどに
自分の目から光が消えていくのを
どうしようもなく見ているだけ
自分から吐き出されるものが怖くて
日に日に呼吸も浅くなっていった
そんなことは誰も気づかず
ここにくる人は増えていくばかり
--もうこの場所の色すら見えなくなった頃
地面にぽつりぽつりと黒いシミが広がり出した
途端に周りにいた人は頭を覆い逃げ出していく
投げつけられた毒が洗い流されて瞼が開く
久々に自分の視界で世界を見た感覚
心地よいリズムが呼吸の仕方を思い出させてくれる
目の中に入り込んだ一滴が、
代わりに頬を伝って感情を教えてくれた
いつしか自分の感情なんて無いものだと思っていたのに
本当にいつぶりか、自分自身を見つけた気がした
この雨の中だったら他の人みたいに
自分の言葉で自分の好きなことを
話して良いんだって言ってもらってるみたいだ
「どうか、どうか。この雨が降り続いて」
それが初めて言葉にした初めての願い
2024-05-25