【降り止まない雨】
言葉なんて、相手の欲しいものを選ぶもの
思い浮かんだものを口から出すと
目の前の人は顔を顰めるから
喉まで込み上げる度に
苦い顔に変わることを恐れて
どうにか口の中で聞き心地の良い言葉に変換して吐き出す
そうして分解したいらないものを
口の中の水分と一緒に無理やり飲み込む
そうしていく内にいつしか
どんなに水を飲んでも喉の渇きが潤わなくなった
少しの違和感はあったけど、周りは僕が言葉を発するたびに
この場所を居心地が良い日向だって明るい場所にしていくから
知らぬ間にどんどんと逃げ場が無くなっていって
他の人が吐き出していった毒が僕にまとわりついて
この場所に光が当たっていくほどに
自分の目から光が消えていくのを
どうしようもなく見ているだけ
自分から吐き出されるものが怖くて
日に日に呼吸も浅くなっていった
そんなことは誰も気づかず
ここにくる人は増えていくばかり
--もうこの場所の色すら見えなくなった頃
地面にぽつりぽつりと黒いシミが広がり出した
途端に周りにいた人は頭を覆い逃げ出していく
投げつけられた毒が洗い流されて瞼が開く
久々に自分の視界で世界を見た感覚
心地よいリズムが呼吸の仕方を思い出させてくれる
目の中に入り込んだ一滴が、
代わりに頬を伝って感情を教えてくれた
いつしか自分の感情なんて無いものだと思っていたのに
本当にいつぶりか、自分自身を見つけた気がした
この雨の中だったら他の人みたいに
自分の言葉で自分の好きなことを
話して良いんだって言ってもらってるみたいだ
「どうか、どうか。この雨が降り続いて」
それが初めて言葉にした初めての願い
2024-05-25
5/25/2024, 1:52:22 PM