【138,お題:愛を注いで】
空っぽな器に溢れんばかりの愛を、すっからかんの私に心を
ただただそこに置いてあるだけの、人形のような日々だった。
誰からも求められず、気にもされず
気付かれず、忘れられ、そこに居るのに見えていないような
自分でも自分が何か分からなかった
人の形をしているけれど、誰も私を人としては見てくれない
じゃあ、人ではないの?と聞かれたら、それも何かが違う気がする
皆が居なくなった真夜中と、誰かが私に命令をした時だけ、私は"人形"から"道具"に変わる
辛いも悲しいも感じたことはなかった
人形も道具も、感情は持たないでしょう?
だからそのお屋敷が火事で燃えた時も、なにも思わない
.........はずだった
業火に包まれて、人々の悲鳴が遠くに聞こえる
その炎を眺めながら、呆然と突っ立っている私
パチパチゴウゴウと、全てを燃す勢いで唸る赤を見ていると
自分の中に、小さな何かが芽生える気がした
初めて得た感情は、喜びだった
感情を得た途端、今までの生活が全て苦痛であったことに気付く
そしてそれから解放された喜び、今から私は自由なんだと
嬉々として走り出した、全てが私を祝福している気がした
だが幸せは続かない
感情を持ってしまったことで得た、終わりのない飢えと渇き
人が人としてあるかぎり、生涯付きまとう欲望
誰か私を認めて、誰か私を愛して
満たされない承認欲求
道具であった過去の方がまだマシだったと錯覚するほどの、強い孤独感
あの頃は、道具であったが必要とされていた
今では存在すら必要とされてない!
誰か私を見つけて、誰か私を救って、誰か私に愛を注いで
愛、そうだ愛
誰かに愛されたい、必要とされたい、それすらも叶わない
結局私を取り巻くのは、終わりない絶望と孤独だったのか
ボロボロの服で、壁に背を預け
死んだような眼で、彼女は呟いた。
【137,お題:心と心】
心と心を通わせる
決して簡単じゃない事だけど
それが出来たときにはきっと
永遠の絆が芽生えるだろう
【136,お題:何でもないフリ】
私のクラスにはいじめがあった。
最初は転校生の子、髪をツインテールにした綿菓子みたいにふわふわの女の子
その子は仲良くしようと頑張ってたけど、1ヶ月経った辺りから学校に来なくなって
そのしばらく後に、転校したって知らせが入った。
次のターゲットは、クラスで一番頭の良かった男の子
テストがいつも満点で、ちょっと話が長いけどクールで優しい子
その子は日に日に痣が増えてきて、先生に相談したみたいだけど全然いじめは止まなくて
数か月後、やっぱり学校に来なくなった。
止めろって思われるかもしれない、見て見ぬふりはダメだって
でも私は正義のヒーローじゃない、皆が皆人を助けられる器じゃない
私の船は1人乗りで、あと1人乗せたら沈むかもしれない
そんなリスクを抱えてまで誰かを救えるほど、私は出来た人間じゃないの
でもきっと、私はどこかで安心してたんだ
そういうものだって何でもないフリして、いつしかそれが当たり前になって
だからこれは、私への罰だ
「......えっ.........」
机に置かれたのは百合の花の花瓶
真っ白い紙に『ご愁傷様です。』と書かれたメッセージカードが添えてある
「なに...これ?......ねえ、みんな...?」
何で?昨日まで別の子だったでしょう?どうして急に...
クスクス嗤う子、気まずそうに目をそらす子
......前の私みたいに、塀の向こうの出来事だと、ただに日常の1部としか見てない子
そっか...こんな気分だったんだ...
見ないフリしてた手前、助けてなんて言えない
誰も助けてくれない、誰も止めてくれない、永遠にも思える絶望感
これが私への罰か
静かに鞄を開け、これがこれからの日常なんだと
何でもないフリをしながら呟いた。
【135,お題:仲間】
仲間って言うのは、他人以上友人未満みたいな関係を指すもので
俺とアンタの関係も、どんなものかと聞かれたら「仲間だ」と言うに等しいと
そう思っていたんだ
アンタはいっつも呑気でだらしなくて楽観的な奴だったな、原稿の提出期限だってちゃんと守る方が少なかった
俺が原稿書いてるときだって、横から後ろから「ゲームしよう」だとか「ねぇ暇なんだけどー」とか...
うるさい、と怒鳴って席を立つと、きゃあきゃあ言いながら走って逃げて
まるで同い年じゃなくて、5歳児か、話の通じないペットと生活しているような気分だったよ
うるさいし、邪魔ばっかりするし、いたずらやドッキリ...
金遣いは荒いし、酒癖も悪い。後先考えずに突っ走るし、それに俺を巻き込むし
だから急に居なくなった時も、いつもの浮浪癖だと思ったんだ
コーン...コーン...コーン...
「この度はご愁傷様でございます。謹んでお悔やみ申し上げます。」
そう挨拶した時、アイツの母親は泣きながらも
「あの子と仲良くしてくれてありがとう」と繰り返し言っていた
「...俺を呼んで良かったんですか?特に接点もない、他人ですよ?」
「いいのよ...あの子と一番仲が良かったのは、貴方だもの」
「そう...ですか、」
大量の花と共に棺に収まったアイツの姿を見た、その姿はとても"らしくなくて"
もしかしたら全てドッキリで、いまにも起き上がって「騙されたーw」と愉快に笑うのではないか
そう思ったが、手に少し触れたとき、もうすでに人の温度ではなくて漠然とした虚無感があった
「なんで、コイツ死んだんすかね」
誰に聞かせるつもりもなく、小さく呟く
「アンタ、なんで死んだ?」
別に死んだのが悲しいとか寂しいとか、死んでほしくなかったという執着があったわけじゃない
死ぬときは死ぬんだし、訃報を聞いた時も「そうなのか」くらいにしか思わなかった、だが
「変な感じだ」
少なくとも、俺よりは生きるだろうと思っていた。こんなに早く死ぬとは思わなかった
アイツの母親は、「あの子と一番仲が良かったのは貴方だ」と言っていた
そうだっただろうか、本当に俺とアイツは仲が良かったのか
でもまあ、そうか
「仲間」なら、はいそうですか。で終わるもんな
こうして葬儀にも来て、俺はちゃんと悲しくなっている
「死ぬ時くらい連絡しろよ」
ようやく俺達は、対等な友人になれたのかもしれない
【134,お題:手を繋いで】
「うわっ!?」
ドタドタドタっ
「え、ちょ!?は?」
勢いよく階段を踏み外し、僕は数メートル下まで転がり落ちた
少し前を歩いていた君は、驚いて裏返った声で叫びながら慌てて階段を下ってくる
「いったぁ~い」
「いやアンタ...大丈夫なの...?」
「うんまあね、これが初めてじゃないし~」
手をぐっぱして、正常に動くか確認
足も触ってみたけど折れてなさそうだし、ちゃんと受け身取れたっぽいかなぁ
一方君の方は、本当に理解できないと言ったような顔で「は?」やら「え?」やら繰り返してる
まあ、いきなり同級生が階段から落っこちたらそうなるか
「初めてじゃない?...ってことはアンタもしかして」
「あ、うん、結構よく落ちちゃうんだよね、やっぱ段差は見にくくてさぁ」
はあ...?と心底呆れたような顔で溜め息をつく君
僕は生まれつき目がちゃんと見えない、眼鏡とかで補助してなんとか1人で行動出来るレベルにはなったけど
物との距離感を掴むのが特に苦手で、こうしてよく階段を踏み外したり、物にぶつかったりする
そのせいで打撲や擦り傷、酷い時には捻挫骨折が絶えない
「アンタ危ないから外に出んのやめたら?」
「それはよく言われるけど、...それだと障害者だって、皆とは違うって言われてるみたいで嫌なんだよね」
僕だって皆同じ人間なんだ、心配してくれるのは嬉しいけど、それが必ずしも僕のためになるとは限らない
君は、わがままなんだから、と呆れたように呟いてスッと手を差し出した
「はぁ、じゃあ手貸して」
「手?」
「そ、手繋いでおけば少しは怪我が減るでしょ?」
ほら手、と当たり前のように差し出してくれる
僕は嬉しいやら恥ずかしいやら、君いつもは絶対こんなことしないでしょ
「えへへ~、ありがとぉ」
「なに笑ってんのよ...」
君の手を借りて立ち上がる、その手は僕よりも少し温かくて安心できる温度だった
トクトクと心臓がうるさく鳴るのを感じながら、君も同じ気持ちならいいなぁ、とふと思った