無音

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【138,お題:愛を注いで】


空っぽな器に溢れんばかりの愛を、すっからかんの私に心を


ただただそこに置いてあるだけの、人形のような日々だった。

誰からも求められず、気にもされず
気付かれず、忘れられ、そこに居るのに見えていないような

自分でも自分が何か分からなかった

人の形をしているけれど、誰も私を人としては見てくれない
じゃあ、人ではないの?と聞かれたら、それも何かが違う気がする

皆が居なくなった真夜中と、誰かが私に命令をした時だけ、私は"人形"から"道具"に変わる

辛いも悲しいも感じたことはなかった
人形も道具も、感情は持たないでしょう?


だからそのお屋敷が火事で燃えた時も、なにも思わない
.........はずだった


業火に包まれて、人々の悲鳴が遠くに聞こえる
その炎を眺めながら、呆然と突っ立っている私

パチパチゴウゴウと、全てを燃す勢いで唸る赤を見ていると
自分の中に、小さな何かが芽生える気がした

初めて得た感情は、喜びだった

感情を得た途端、今までの生活が全て苦痛であったことに気付く
そしてそれから解放された喜び、今から私は自由なんだと
嬉々として走り出した、全てが私を祝福している気がした

だが幸せは続かない

感情を持ってしまったことで得た、終わりのない飢えと渇き
人が人としてあるかぎり、生涯付きまとう欲望

誰か私を認めて、誰か私を愛して

満たされない承認欲求
道具であった過去の方がまだマシだったと錯覚するほどの、強い孤独感

あの頃は、道具であったが必要とされていた
今では存在すら必要とされてない!

誰か私を見つけて、誰か私を救って、誰か私に愛を注いで

愛、そうだ愛
誰かに愛されたい、必要とされたい、それすらも叶わない


結局私を取り巻くのは、終わりない絶望と孤独だったのか

ボロボロの服で、壁に背を預け
死んだような眼で、彼女は呟いた。

12/13/2023, 11:44:16 AM