【87,お題:どこまでも続く青い空】
「お前が居るこの場所が、俺の故郷だから」
旅立ちのその日、お前は太陽みたいな笑顔で笑って言った
「俺は帰ってくるよ、絶対に」
「ああ、分かってる、お前が嘘は言わないってことぐらい」
カラッと澄み渡った美しい空、どこまでも無限に広がる青い空
旅立ちにはぴったりな天気だ
「ほら、早く出た方がいいんじゃないか?ここら辺は天気が変わりやすい」
「そうするよ、じゃあ行ってくる」
「気を付けてな」
「きっと帰ってくるからな」
大きく手を振りながら笑うその顔が、どんどん遠ざかっていく
幼い頃からずっと支えあって生きてきた、俺の半身のような存在
親友であり、家族であり、大切な仲間だ
そんなお前が決めたことなんだ、俺は応援するよ
「寂しくなるなぁ...」
誰にも聞こえないように呟く
ずっと一緒に生活してきたから、1人になるなんて久しぶりだ
でも、
「お前は嘘は言わないもんな」
このどこまでも続く青い空のどこかで、お前が元気に過ごせているなら
俺はそれで構わない
「絶対帰ってこいよ」
親友が遠ざかっていった、地平線の彼方を眺めて
青年は誇らしげに微笑んだ
【86,お題:衣替え】
衣替え...皆さんもうされましたか?
私は、実はまだなんですねぇ...(笑)
最近ずぅっと風邪が冷たいですし、そろそろ暖かい服出そうかと
思うには思うんですよ、はい”思うには”ね
如何せん私、滅茶苦茶めんどくさがりでして(笑)
「あー今日寒いなー、暖かい服出そうかなーでもめんどいし明日かなー」
↑このような思考を続けて早1ヶ月ほど、時が経つのは早いですね
【85,お題:声が枯れるまで】
声が枯れるまで、宝物を失くした子供のように貴方の名前を呼び続けた
「晴斗ーっ!どこいるの?ねぇ!晴斗!」
月明かりだけを頼りに、汚れるのも構わず草むらに突っ込む
ガサガサと、背の高い雑草を掻き分けながら必死で叫ぶ
手が切れる感覚、葉の鋭い草や棘に触れてしまったんだろう
だが今は、凍えるような寒さより 傷だらけの手の痛みより
貴方がいない事が何よりも恐ろしかった
「晴斗ーっっっ!!お願い、返事して!」
冷気を吸い込んで喉が千切れそうなほどに痛む、声が枯れ、ガラガラの掠れ声でもまだ叫ぶ
「晴斗ー!はるッ...ゲホッ!...ッ...!」
流石に無理をしすぎたか、足から力が抜ける
ドチャリと音を立てて、草むらに泥に倒れ込んだ
「晴斗...!どこに、いるの...?」
まだ倒れられない、あの子を連れて帰るんだ
大きな楓の木の下、泥塗れのボロボロの姿で貴方はいた
小さな身体を更に小さく丸めて、夜風に震えながら弱々しく息をしていた
「晴斗っ!」
ごめんね 寒かったね 怪我してない? お腹空いたよね 遅くなってごめんね
溢れてくる言葉に蓋をして、ひたすら強く抱き締める
何時間外に居たのだろう、氷のように冷たい身体が小刻みに震えていた
「かぁ...さん...?」
「晴斗!」
怖かったよね、ダメな母さんでごめんね
もう絶対こんな思いはさせないから
「お家...帰ろうか」
「...ぅん!お腹空いた」
小さな小さなその手を、もう離すことのないように
【84,お題:始まりはいつも】
コップに入った水が飲み干されてしまうように
美しく咲き誇った花が朽ちて地に落ちるように
連載を始めた漫画が最終話を迎えるように
始まりはいつも、終わりへの出発点
【83,お題:すれ違い】
どんなに相手を大切に思っていても、必ず相手が同じ気持ちとは限らない
どんなに相手を信頼していても、必ず相手が同じ信頼を寄せてくれてるとは限らない
人と人が完全に互いを分かり合うのは不可能、必ずどこかでズレが生まれてしまう
それにいち早く気付き、互いが満足できる結果に治せるのならばこのズレも悪いものではないのだろう
だが、一番怖いのは
人は、大切なものほどその異常に気が付けないということだ
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いつからだ?お前と視線が合わなくなったのは
いつからだ?隣を歩く温もりが遠ざかって行ったのは
いつからだ?いつからお前は
そんなに憂いを溜めた目で笑うようになった?
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「おいっ!...待てよ!」
薄暗い路地の裏、めったに人が来ないこの場所で声を荒げる
ビクッと肩が震えて止まった、絶対に見間違えようのないその背中
「お前...なんで...」
一歩踏み出すと、その途端に同じ歩数下がり こっちに来るなと、目線で伝えてくる
その目は真剣で、お前なりに覚悟を決めていることが伝わってきて
俺の足はそれ以上先には進めなかった
「......どうして殺しなんか始めた?お前血ィ苦手だったろ」
お前の事ならきっと俺が一番理解してる、だがこれだけは分からない
「なんで親まで殺して姿を消した!?...今や世間ではお前が殺人鬼だってニュースまで流れてるんだぞ!」
じっと俺の言葉を受け止めるように、目を伏せて耳を傾けている
やがて開かれた瞳は、お前のものとは思えないほどどす黒く濁っていた
一歩後ずさる、ずっと側に居たのに知らなかった
一緒に沢山馬鹿やって、一緒に叱られて、でも振り向いた顔は困ったように笑ってて
でも本当は、そんな顔してたのか...?
「...僕は...僕はね、この行動が正しいなんて微塵も思ってない」
「ッ!だったら...」
「でもさッ!!」
苦しかったんだ、蚊の鳴くような細く弱々しい声でお前は言う
「朝起きて、飯食って、夜布団入る時もずっと!
頭の隅にあるんだ...ぐちゃぐちゃした、呪いみたいな何かが」
苦しそうに頭を抱え下を向く
顔は見えないが、今にも泣き出しそうな子供のような声だった
「これがなんなのか僕にも分からない、気持ち悪いったらありゃしないよ
僕自信にも分からない何か、僕ではないナニか、そいつが前に言ったんだ」
『全部壊シてしマおう』
「怖かった、抑え込むのに必死でお前に相談も出来なかった
ある日3日くらいかな、意識が無い日があったんだ、僕が姿を消したあたりだよ」
確かにあった、3日間家にも帰らず行方不明になってた時期が
そして、その後すぐ...
「ビックリだよね、気付いたら家のなかで、ぐちゃぐちゃの...親だった肉塊の前で立ってるんだから」
深く息を吸って吐いて、静かな深淵を写したような目で俺を見てお前は言う
「お願いがある次会ったら、その時は僕を殺して欲しいんだ
僕は今指名手配犯だし、別にここで殺しても構わないけど...」
フッと、口角が上がる
「僕は今、初めて自分の人生が楽しい」
皮肉にもそれは、俺が見てきた中で一番美しい笑顔だった
「じゃあね」
くるりと踵を返し、弾むような足取りで路地の闇に溶けていく元親友
追うことも引き留めることも出来ず、その場に縫い止められたように不格好なポーズで停止する
いつから、すれ違っていたのだろう
もし、俺が気付けてたら
お前はこんな行動には出なかっただろうか?
もし、俺が気付けてても
お前はこの行動に出ただろうか?
引き留めようと無意識に伸ばした手がストンと落ちる
もう手が届かないとこまで行ってしまった、手遅れか
「独り善がり、ねぇ...」
なんとも言えない気持ちのまま帰路に着いた
その日以来、お前が俺の前に現れることはなかった