【83,お題:すれ違い】
どんなに相手を大切に思っていても、必ず相手が同じ気持ちとは限らない
どんなに相手を信頼していても、必ず相手が同じ信頼を寄せてくれてるとは限らない
人と人が完全に互いを分かり合うのは不可能、必ずどこかでズレが生まれてしまう
それにいち早く気付き、互いが満足できる結果に治せるのならばこのズレも悪いものではないのだろう
だが、一番怖いのは
人は、大切なものほどその異常に気が付けないということだ
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いつからだ?お前と視線が合わなくなったのは
いつからだ?隣を歩く温もりが遠ざかって行ったのは
いつからだ?いつからお前は
そんなに憂いを溜めた目で笑うようになった?
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「おいっ!...待てよ!」
薄暗い路地の裏、めったに人が来ないこの場所で声を荒げる
ビクッと肩が震えて止まった、絶対に見間違えようのないその背中
「お前...なんで...」
一歩踏み出すと、その途端に同じ歩数下がり こっちに来るなと、目線で伝えてくる
その目は真剣で、お前なりに覚悟を決めていることが伝わってきて
俺の足はそれ以上先には進めなかった
「......どうして殺しなんか始めた?お前血ィ苦手だったろ」
お前の事ならきっと俺が一番理解してる、だがこれだけは分からない
「なんで親まで殺して姿を消した!?...今や世間ではお前が殺人鬼だってニュースまで流れてるんだぞ!」
じっと俺の言葉を受け止めるように、目を伏せて耳を傾けている
やがて開かれた瞳は、お前のものとは思えないほどどす黒く濁っていた
一歩後ずさる、ずっと側に居たのに知らなかった
一緒に沢山馬鹿やって、一緒に叱られて、でも振り向いた顔は困ったように笑ってて
でも本当は、そんな顔してたのか...?
「...僕は...僕はね、この行動が正しいなんて微塵も思ってない」
「ッ!だったら...」
「でもさッ!!」
苦しかったんだ、蚊の鳴くような細く弱々しい声でお前は言う
「朝起きて、飯食って、夜布団入る時もずっと!
頭の隅にあるんだ...ぐちゃぐちゃした、呪いみたいな何かが」
苦しそうに頭を抱え下を向く
顔は見えないが、今にも泣き出しそうな子供のような声だった
「これがなんなのか僕にも分からない、気持ち悪いったらありゃしないよ
僕自信にも分からない何か、僕ではないナニか、そいつが前に言ったんだ」
『全部壊シてしマおう』
「怖かった、抑え込むのに必死でお前に相談も出来なかった
ある日3日くらいかな、意識が無い日があったんだ、僕が姿を消したあたりだよ」
確かにあった、3日間家にも帰らず行方不明になってた時期が
そして、その後すぐ...
「ビックリだよね、気付いたら家のなかで、ぐちゃぐちゃの...親だった肉塊の前で立ってるんだから」
深く息を吸って吐いて、静かな深淵を写したような目で俺を見てお前は言う
「お願いがある次会ったら、その時は僕を殺して欲しいんだ
僕は今指名手配犯だし、別にここで殺しても構わないけど...」
フッと、口角が上がる
「僕は今、初めて自分の人生が楽しい」
皮肉にもそれは、俺が見てきた中で一番美しい笑顔だった
「じゃあね」
くるりと踵を返し、弾むような足取りで路地の闇に溶けていく元親友
追うことも引き留めることも出来ず、その場に縫い止められたように不格好なポーズで停止する
いつから、すれ違っていたのだろう
もし、俺が気付けてたら
お前はこんな行動には出なかっただろうか?
もし、俺が気付けてても
お前はこの行動に出ただろうか?
引き留めようと無意識に伸ばした手がストンと落ちる
もう手が届かないとこまで行ってしまった、手遅れか
「独り善がり、ねぇ...」
なんとも言えない気持ちのまま帰路に着いた
その日以来、お前が俺の前に現れることはなかった
10/19/2023, 10:32:59 AM