無音

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【85,お題:声が枯れるまで】

声が枯れるまで、宝物を失くした子供のように貴方の名前を呼び続けた

「晴斗ーっ!どこいるの?ねぇ!晴斗!」

月明かりだけを頼りに、汚れるのも構わず草むらに突っ込む
ガサガサと、背の高い雑草を掻き分けながら必死で叫ぶ

手が切れる感覚、葉の鋭い草や棘に触れてしまったんだろう
だが今は、凍えるような寒さより 傷だらけの手の痛みより

貴方がいない事が何よりも恐ろしかった


「晴斗ーっっっ!!お願い、返事して!」

冷気を吸い込んで喉が千切れそうなほどに痛む、声が枯れ、ガラガラの掠れ声でもまだ叫ぶ

「晴斗ー!はるッ...ゲホッ!...ッ...!」

流石に無理をしすぎたか、足から力が抜ける
ドチャリと音を立てて、草むらに泥に倒れ込んだ

「晴斗...!どこに、いるの...?」

まだ倒れられない、あの子を連れて帰るんだ


大きな楓の木の下、泥塗れのボロボロの姿で貴方はいた
小さな身体を更に小さく丸めて、夜風に震えながら弱々しく息をしていた

「晴斗っ!」

ごめんね 寒かったね 怪我してない? お腹空いたよね 遅くなってごめんね

溢れてくる言葉に蓋をして、ひたすら強く抱き締める
何時間外に居たのだろう、氷のように冷たい身体が小刻みに震えていた

「かぁ...さん...?」

「晴斗!」

怖かったよね、ダメな母さんでごめんね
もう絶対こんな思いはさせないから

「お家...帰ろうか」

「...ぅん!お腹空いた」

小さな小さなその手を、もう離すことのないように

10/21/2023, 10:20:09 AM