【52,お題:夜景】
カラフルな色が咲き乱れる夜
涼しい風を浴びながら、軽やかに階段をかけ上る
ここはとあるビルの屋上、かなり錆びてたし多分もう廃墟だろう
夜の空気を全身で吸い込み、ふわふわとした足取りで屋上の隅に向かう
上から身を乗り出すと、うっとりするほど美しい夜景が目に飛び込んできた
これから私は天使になるんだ
この腐りきったこの世とおさらばして、自由の翼を手に入れる!
きっとどこまでも飛んでいけるんだ、縛るものはなにもない
靴を脱ぎ、危なっかしく縁に足をかけて立ち上がる
両手を大きく広げた、あんなに淀んで見えた世界が夢のように綺麗に歪んで見えた
フッと、体から力を抜く
私を抱き止めるように、大きく手を広げた街並みが見える
目に突き刺さるネオンの光り、夜なのに騒がしい街
...さようなら
朦朧とした意識の中、最後に聞こえたのはサイレンの音だった。
【51,お題:花畑】
最近よく夢を見るんだ
僕は、昼夜問わず眠くなってしまう体質なんだけど
眠ってしまったときは決まってこの夢を見る
大きな花畑の真ん中で、誰かが立ってる夢
顔まではわかんないし、喋ったこともない知らない人のはずだけど
この夢から覚めた時は、いつも大切な何かがこぼれ落ちたような虚しさがあった。
また、この夢...
たくさんの花に囲まれた、もう見慣れてきた風景が目に入る
ザァっと風が吹き、いつもの誰かが数メートル先に立っていた
ここまではいつもと同じだった
しかし、花畑に立ちすくんでいるその人は、何故かこっちに向かってきた
いつもと違う...
初めて違う行動をしたのと、今日は顔が見えるかもしれないという
少しの期待に、ドキドキしながらその人が近付いて来るのを待った
「ここに来ないで!お兄ちゃん!」
「えっ」
初めて見た顔は、恐ろしい程自分に似ていた。
自分と同じ黒髪を後ろで低く結った、自分とそっくりの顔をした少女
面識はない...はず、しかもさっき「お兄ちゃん」って...
「帰って!ごめんなさいもう連れ込まないから」
ギュンと景色が歪む
何事かと辺りを見回したときには、もう既に半分ほど闇に飲まれていた
「ねえっ!君...」
どこかで会った、そう聞く前に僕の意識は途切れてしまった。
目を覚ますと、いつもの風景
父さんと母さんは、ぼんやりと部家の壁に背を預けていた
「ねえ...父さん、僕って......双子だったりする?」
かつてないほどに見開かれた瞳に、僕は確信した
あとから聞いた話だけど、僕は双子で妹が居たそうだ
でも、建物へ避難してる途中で爆発に巻き込まれて亡くなった
あの子が夢に何度も僕を呼んだのも、きっと寂しかったんだろう
「...いつでも呼んでよ、会いに行くから」
その晩見た夢では、花畑の真ん中でとびきりの笑顔で笑う妹がいた
【50,お題:空が泣く】
そこは1人の少年の気分だけで、天気が変わる世界
彼が笑えば空は晴れ、彼が泣けば空も泣く
そんな世界で、少年は1人膝を抱えて泣いていた
泣くな...泣くな...泣くな...
みんながそれを望むから
笑わなきゃ...笑わなきゃ...笑わなきゃ...
晴れなきゃ布団も干せやしない、洗濯物も乾かない
笑え...笑え...笑え...笑え...笑え...
必死に暗示をかけながら、両手で自分の頬を引っ張る
足元の水溜まりに写った少年の顔は、まだ泣いていた
ザアアアアアアアアッッッッッッッ
雨は勢いを増す
こんな山奥に人がいるはずないのに、見られている気がする
「こんなこともできないのか」責められてる気がする
「っ、ごめんなさいごめんなさいッ...ちゃんとやるから...」
その時、ふっと雨が和らいだ
変わらず降っているがさっきまでの叩き付けるような豪雨じゃない
優しい優しい包み込むような、小降りの雨
まるで、笑わなきゃいけない自分の変わりに泣いてくれるような
ブワァと風が吹く、森が揺れ木の葉が舞った
ビュウウ、ビュウウとまるで「元気だして」と歌うように
その風に押されて、雲が揺れる
曇天を押し退けて、光が覗いた
「...!わぁ...」
丘から見渡す町の景色、曇っているのに晴れていて晴れているのに泣いている
不思議な不思議な景色
キラキラ光りながら、舞い降りてくる雨粒達は
シャボン玉のように七色に色を変えた
「あ、虹だ...」
ふと、雲と太陽の間に七色の尾びれが覗く
ぽかぽかと、心地いい気温の中
うとうと微睡みながら、少年は空を見た
いつか見た、大好きな空の景色
この空が見れるのなら
このお役目も、悪いものじゃないのかな
ぼんやりとそう思い、少年は瞳を閉じた。
【49,お題:君からのLINE】
俺のスマホはちょっと変わっている
...ピロンッ
「おー?今日はどっちかなーっと」
【新着:未来】
「今日は未来からかぁ~」
俺のスマホは一日一回、過去か未来からLINEが来る
相手もわからないし、そもそもどういったことが起きてるのかすらわからないが
学校の成績は、下から数えた方が早い。俺
考えることを早々に放棄し、この不可解な現象を楽しむことに専念している
「んー?何々...」
[おい、この文見てる人
マジで聞いてくれよー、今日のアルバイトなんだけどさぁ!
江本店長にすげえ怒られちまってさーーっ
にこぉって、すっげえ怖い笑みで後ろに立たれててぇ心臓凍りそうだったわ...
げっ、って呟いて先輩逃げるしぃ...
ろくでもないとこに、バイト入っちまったよぉー...]
「wぶっww、大変だなぁーw」
小さく吹き出しながら文章を目で追う、他愛もない日常の1コマ過ぎるだろw
「ん、...あれ」
ふと、俺は動きを止めた
「...これ」
ザアァっと背中を悪寒が撫でる
ブヅッ......
次の瞬間、部家の電気が切れた
【48,お題:命が燃え尽きるまで】
ズガッドガガガガガッッッッッ!!!
「ッガハッ!...ッ」
もう何度目か、物凄い衝撃波と共に吹き飛ばされ
何枚もの壁をぶち破って、床に転がる
肋が折れた、右足も
もうさっきまでのスピードは使えないか
「もー諦めたら?おれとお前じゃあ、力の差がありすぎんだよ」
床に手を付き、何とか立ち上がろうと呻いている俺を
そいつは小馬鹿にするような、死にかけの蟻を見るような軽蔑の眼差しで眺めている
「諦めなよ、おれも行くとこあんだって、お前と遊んでる暇ねーの」
待てよ、そっちには絶対行かせない...!
「......はっ、逃げんのか?クソザコ」
「あ“ぁ?」
ドガァッ!
立ち上がりかけるも、再び頬を殴られ床に沈められる
意識を向けさせようとでた言葉が、思った以上に効力を発揮したようだ
「随分舐めた口聞くじゃァん?人間の癖に」
「そのお前が舐め腐った人間に、お前はこれから殺されるんだぜ」
「ふーんそっかぁ...」
もう仕事とかどーでも良いわ
「お前をぶっ殺す」
ビュウウ、とそいつの雰囲気が変わる
遊ぶとかじゃない、本気で向けられている殺意と憎悪
そうだ、それでいい
立ち上がりぐっと拳を握りしめる、ボウッと音がして両手がじんわり熱くなった
炎を両手に揺らめかせて、顔の前で構える
絶対に彼らのとこには行かせない、俺を信じてくれた彼らを絶対に傷付けさせない
この俺の命が燃え尽きるまで
全力であの化け物を殺す。
全ては
俺を助けてくれたみんなの為に