【12,お題:上手くいかなくたっていい】
私たちは生まれたときから皆、羽を持って生きている。
大きさも色も形もそれぞれ違って、同じものは誰1人存在しない
私の羽は青色“だった”。
“だった”と過去形にしたのは、今の私の背に羽はないからだ
私の羽は、10年ほど前にちぎられてなくなった。
あれほど痛んだ傷口も、あれほど流れた涙も今となってはなんとも思わない
ただ漠然とした焦燥感に揉まれながら、作業のように毎日を消化していた。
ーそんなある日だった、あの子に出会ったのは。
とっくに終業時間は過ぎてるのに、明かりがつけっぱなしの部屋があったから見に行ったとき
中を覗いたら、1人作業をしている君の姿があった。
真っ先に視線が捉えたのは、君の背に羽があったことだった。
「え、その...羽......」
思わず声が出る、静かだったぶんよく聞こえたみたいで
驚いて振り返った君は、扉の横で棒立ちになっている私を見て二重に驚いていた。
「うわびっくりした!って、センパイ!?何で?」
「いや私、今日当番で...それよりその羽って...」
「......気になります?」
彼女の羽は酷くボロボロだった。
「この羽ねぇ、あたしが作ったんスよ!」
バッと椅子から立ち上がり、両腕を広げてニッと笑う君
「どうッスか?結構上手く出来たつもりなんスけど」
「......」
お世辞にも上手いとは言えない出来だ
骨組みの木は形が揃っていないし、そこに張られた布も所々汚れてるし破れている。
「あはは...やっぱそーゆー反応ッスよねぇ~」
「ぇ...なんで...」
どうして笑えるの?その問いを察したのか彼女は答えてくれた。
「あたしの羽、ちぎれて無くなっちゃったんス。でも、それで終わりって訳じゃないッスよね?
もう一度自分で作り直せば今度こそ飛べる。そう思った次第ッス!」
「まあ、まだ飛ぶのは無理ッスけど」と笑って見せる彼女
その背中の羽は、見たよりもずっと大きく感じた。
「でもッ、出来ても上手く飛べないんじゃ」
「上手くいかなくたっていいんス」
私の声を遮って彼女が言う
「上手くいかなくたっていい、いつか絶対飛べる
それに、こうやってなにかに向けて必死に努力する感覚が、なんか懐かしくって」
またニカッと笑って見せた彼女
ああ、眩しいな。私もそうなれるかな、いつか不格好でも飛べる日が来るだろうか、もしそうなら
彼女のようにもう一度だけ、努力をしても、いいかな......
【11,お題:蝶よ花よ】
俺は物心ついた時には耳が聞こえなかった。
だから言葉を覚えることは出来なかったし、喋ることもろくに出来なかった。
そのためなのか、俺は蝶よ花よと育てられた。
指差したものはなんでも買い与え、少しでも興味を示したものは全て与えられた
両親は俺のことばかり気にしていて双子の弟のことは見えてないみたいだった。
弟が不満そうにしているのは、薄々勘づいていたが
俺はどうするべきか分からず、なにも出来なかったのを後悔している。
ある夜、弟は俺をベランダに連れ出した。
その日は星が綺麗だったから、最初はそれを見せたいのかと思ったのだが
弟は一言二言何か言った後に、俺に掴みかかった。
「ーーーっ!✕✕✕ッッっ!?」
「ーっ!✕✕✕っ!ーーーーー!」
狭いベランダのなかで、揉み合う
手すりから上半身が乗り出したところで、初めて月明かりに照らされ弟の表情が見えた
泣いていた。
重力にしたがって落ちている、恐怖はなかった。
なんとも言えない変な感覚に包まれながらふと思う
俺、弟のことなんにも知らないな
好きなもの 好きなこと 得意なこと 苦手なこと、
全部知らずに、知ろうともせずにここまで生きていたんだ
ごめん。
............ドンッ!......。
【10,お題:最初から決まってた】
きっと、これは最初から決まっていたことなんだ。それこそ俺が生まれるずっと前から
「俺は、1番にはなれない。」
俺は双子だった。俺は弟で兄がいた。
それこそ、顔も声も好きなものだって、そっくりそのまま俺の生き写しのような奴だった。
でも何故だか、やることなすこと全てにおいて兄貴は俺の上を行った。
俺がかけっこで1位を取った時、兄は市内のマラソン大会で1位を取った。
俺がゲームで最高記録を出した時、兄はそれを2分で越えて見せた。
俺が絵を描いたときも、工作で本棚を作ったときも
俺が努力をして積み上げたものを、容易く兄貴は踏みにじった。
そして周りの大人たちは、比べっこが好きらしい。
どんなことでも俺と兄貴を比べた。
......いや比べてない、一方的な贔屓だこれは
弟は兄の引き立て役にしかなりえない
どんなに努力をしても、兄貴という存在が邪魔をする
兄貴なんて、いなければよかったのに..
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「ーーーっ!?~~ッッーっ!」
「ーーー✕✕✕っ!~ッッっ!」
ドンッッッ!..............ドスっ
兄貴をベランダから突き落とした。
「はーっ...はーっ...はーっ...」
これで、俺は...
「ハハ......ッッハハハハハハハハハ!」
俺は狂ったように笑い続けた。
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それから数年後、俺はふざけて落下死した馬鹿な弟を持つ兄として生きている。
目の上のたんこぶが消え失せて、俺は自由に生きれると思った。だが
「兄だけでも生きててよかったわ、弟のほうは無能すぎて要らないもの」
「弟は死んでよかった」「兄だけいればよかった」
......そうか、最初から俺は要らない奴だったのか
全部最初から決まってたんだ、この結末も......
月に照らされた人影は、閑静な住宅の海に沈んで消えた。
【9,お題:太陽】
5100年、太陽は消滅。
地球は闇に覆われ、各地でパニックが巻き起った。
それから300年後、人類はゆっくりと世界に適応していき闇の中での生活が当たり前になった。
目はほとんど使わないため視力が退化し、変わりに嗅覚と聴覚が進化した。
肉や野菜はとてつもない高級品になり、そのかわりにパサパサしたビスケットのようなものが主食となった。
そんなものを毎日食べて暮らし、おまけに日に当たれないとなると不健康にならないわけがなく
病人は太陽があった頃に比べ87%も増加し、そしてその大半が10代という若い世代で亡くなっている。
また、一日中暗く寒い環境では精神にもかなりの悪影響があり
犯罪や傷害事件、ひどい場合では殺人事件にまで発展し、各国の治安は最悪なものへとなっている。
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《続いてのニュースです。昨晩○○県△△市の居酒屋、□□店にて強盗殺人事件がありました。
また、同ッ刻✕✕数件同、の事件がおきてい。ッため、警✕は複ッの...》
ブツッ......
「あーまた切れた、本ッッッッ当にこのラジオオンボロなんだから」
「まぁまぁ、ここら辺電波悪いし仕方ないよ。......はい、これ飲む?」
「飲むー...スン.....お、もしかしてカモミール?」
「正解、よく分かったね?」
おもむろに彼のとなりに腰を下ろして、淹れたばかりのカモミールティーを口に運ぶ。
「昨日はジンジャー、その前はセントジョーンズワート、相変わらずルカのとこはハーブの匂いがキツいよ」
「そういいながら、エドは毎日来てるじゃないか」
会話は一度そこで途切れた。
カモミールティーを飲むのに集中していたのと、視覚からの情報がほぼないため話のネタは割とすぐ尽きてしまう
手元のハーブティーが半分ほど減った頃、唐突にエドが声をあげた。
「ね、ルカ もし太陽があったらどんな感じなのかな」
「どうだろう?...とにかくすごく暑くなるらしいよ
今は、その暑さを体験した人は残ってないから分かんないけど」
「ふーん、他には?」
「後は......目が、見えるようになるって...」
「えっ、そうなの!?どんな感じなんだろ~」
「なんか、“いろ”?って言うのがあるらしい」
「へぇ~じゃあ、お互いの顔も見える?」
その問いに「うん」と答えると、エドは「うわぁ~」と言葉にならない歓喜のような声を発し、しばらくして再び静かになった。
おそらく本当にそうなったらどうしよう、などと妄想をしているのだろう。
残りのハーブティーを一気に飲み干す、甘ったるい香りが鼻を抜けた。
カップを横に置いて、ボーッとしながら考える
太陽が再び戻るなんて、そんなのありえないはっきり言って不可能だ
もし、戻ったとしても。暗闇になれきった僕たちの体に太陽は暑すぎる。適応する前に...と考えるのが妥当だろう
だけどもし、奇跡がおきて日の光の下を歩けるようになったら...
僕は、“えがお”というやつで思い切り笑ってみたい。
【8,お題:鐘の音】
9時59分...来るっ!
時計の秒針を眺めて10時に達する直前で、私は勢いよく布団を被った。
たっぷり1分ほど時間をとって、恐る恐る布団からはい出してため息を一つ。
はぁ...なぁぁぁんで我が家の時計は振り子式なんだぁ...
そう、実は私30分ごとになる振り子時計の鐘の音が苦手なのだ!!(ドヤサッッッ)
...ってまあそうドヤることでもないんだけどね。
共感してくれる人1人はいると思うんだよー、小さい時に1人でトイレに行けない理由 第一位だもんあれ
だって怖くない?怖いでしょあれ
特に夜っっっ!
おばあちゃん家とかに泊まり行ったときとかホントに怖くて、トイレ行けなくて漏らしちゃったことが...うぅ思い出しただけで恐怖だよぉ
しかも鐘の音ってホラーでよくあるじゃん!
え、ない?なんか夜に鐘の音がその時間じゃないのに一回多く鳴って、気付いたら変な世界に...みたいなやつ、えっ無いかな?
いやまあ、大定番って感じではないか。ちょっと言いすぎましたスミマセン
あと私ホントに怖かったのが、喉が渇いちゃって水を飲みに行ったのね?
その時に振り子時計の前を通んなきゃいけないんだけど...まあ、ささっと行けばいっかと思ったのね?
んで、水飲んでその帰りですよ。
廊下を歩くじゃないですか?振り子時計の前を通るじゃないですか?その通る瞬間ですね?
...ボーン...ボーン...ボーン...
ぎぃやああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!(クソデカ大絶叫)
心臓がまろびでるかと...いや出たわ。心臓出たわ、うん。
マジ、ピンポイントで耳の横で鳴るのはヤバ過ぎた。それから夜に水飲みに行けなくなって
ペットボトルに水入れて手元に置いておくようにしてる。うん、もう振り子時計の前は通れん。
っっってちょっと待って!?もう10時27分っ!?
時が経つのは早いのう...じゃなくて!耳塞がないと!じゃあ私は耳を死守する用事があるから!またね!