無音

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【11,お題:蝶よ花よ】

俺は物心ついた時には耳が聞こえなかった。
だから言葉を覚えることは出来なかったし、喋ることもろくに出来なかった。

そのためなのか、俺は蝶よ花よと育てられた。
指差したものはなんでも買い与え、少しでも興味を示したものは全て与えられた
両親は俺のことばかり気にしていて双子の弟のことは見えてないみたいだった。

弟が不満そうにしているのは、薄々勘づいていたが
俺はどうするべきか分からず、なにも出来なかったのを後悔している。


ある夜、弟は俺をベランダに連れ出した。
その日は星が綺麗だったから、最初はそれを見せたいのかと思ったのだが

弟は一言二言何か言った後に、俺に掴みかかった。

「ーーーっ!✕✕✕ッッっ!?」

「ーっ!✕✕✕っ!ーーーーー!」

狭いベランダのなかで、揉み合う
手すりから上半身が乗り出したところで、初めて月明かりに照らされ弟の表情が見えた

泣いていた。



重力にしたがって落ちている、恐怖はなかった。
なんとも言えない変な感覚に包まれながらふと思う

俺、弟のことなんにも知らないな

好きなもの 好きなこと 得意なこと 苦手なこと、
全部知らずに、知ろうともせずにここまで生きていたんだ

ごめん。

............ドンッ!......。

8/9/2023, 4:01:15 AM