無音

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【9,お題:太陽】

5100年、太陽は消滅。
地球は闇に覆われ、各地でパニックが巻き起った。

それから300年後、人類はゆっくりと世界に適応していき闇の中での生活が当たり前になった。
目はほとんど使わないため視力が退化し、変わりに嗅覚と聴覚が進化した。
肉や野菜はとてつもない高級品になり、そのかわりにパサパサしたビスケットのようなものが主食となった。

そんなものを毎日食べて暮らし、おまけに日に当たれないとなると不健康にならないわけがなく
病人は太陽があった頃に比べ87%も増加し、そしてその大半が10代という若い世代で亡くなっている。

また、一日中暗く寒い環境では精神にもかなりの悪影響があり
犯罪や傷害事件、ひどい場合では殺人事件にまで発展し、各国の治安は最悪なものへとなっている。

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《続いてのニュースです。昨晩○○県△△市の居酒屋、□□店にて強盗殺人事件がありました。
また、同ッ刻✕✕数件同、の事件がおきてい。ッため、警✕は複ッの...》

ブツッ......

「あーまた切れた、本ッッッッ当にこのラジオオンボロなんだから」

「まぁまぁ、ここら辺電波悪いし仕方ないよ。......はい、これ飲む?」

「飲むー...スン.....お、もしかしてカモミール?」

「正解、よく分かったね?」

おもむろに彼のとなりに腰を下ろして、淹れたばかりのカモミールティーを口に運ぶ。

「昨日はジンジャー、その前はセントジョーンズワート、相変わらずルカのとこはハーブの匂いがキツいよ」

「そういいながら、エドは毎日来てるじゃないか」

会話は一度そこで途切れた。
カモミールティーを飲むのに集中していたのと、視覚からの情報がほぼないため話のネタは割とすぐ尽きてしまう


手元のハーブティーが半分ほど減った頃、唐突にエドが声をあげた。

「ね、ルカ もし太陽があったらどんな感じなのかな」

「どうだろう?...とにかくすごく暑くなるらしいよ
今は、その暑さを体験した人は残ってないから分かんないけど」

「ふーん、他には?」

「後は......目が、見えるようになるって...」

「えっ、そうなの!?どんな感じなんだろ~」

「なんか、“いろ”?って言うのがあるらしい」

「へぇ~じゃあ、お互いの顔も見える?」

その問いに「うん」と答えると、エドは「うわぁ~」と言葉にならない歓喜のような声を発し、しばらくして再び静かになった。
おそらく本当にそうなったらどうしよう、などと妄想をしているのだろう。

残りのハーブティーを一気に飲み干す、甘ったるい香りが鼻を抜けた。
カップを横に置いて、ボーッとしながら考える

太陽が再び戻るなんて、そんなのありえないはっきり言って不可能だ
もし、戻ったとしても。暗闇になれきった僕たちの体に太陽は暑すぎる。適応する前に...と考えるのが妥当だろう

だけどもし、奇跡がおきて日の光の下を歩けるようになったら...
僕は、“えがお”というやつで思い切り笑ってみたい。

8/6/2023, 12:28:32 PM