無音

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8/4/2023, 11:52:46 AM

【7,お題:つまらないことでも】

俺は聞く「毎日窓の外ばっか見てつまらなくないのか」
君は答える「つまらなくなんかないよ」と、

事故で入院したとき初めて君にあった
窓の外を眺めてピクリとも動かないから、最初は人形なんじゃないかと思ってしまった。
こっちを向いた君と目があって、なんて綺麗な人なんだろうととても驚いたのを覚えている。
驚いて馬鹿みたいに口を開けてる俺に、くすっと笑って君は言った。

「こんにちは、いい天気ね」

君はその名を“優花(ゆうか)”と言った。


優花の病室に通うようになって何ヵ月かしたときこんな質問をした。
「窓の外ばっか見ていてつまらなくならないのか?」
優花は初めてあったときみたいにくすっと笑って答えた。

「あーそれよく言われるなぁ...、別につまらなくなんかないよ。というより、テレビとかYouTubeよりもずっと面白い」

意外だ、てっきり病気で外に出れないから仕方なく眺めているものだと思っていた

「みんな、つまらなくないのー?って聞いてくるけどこういう習慣ってすごく大事だと思うんだ~
当たり前すぎて忘れてるけど、私たちみんな生きてるんだよ。この世に存在していて、息をしてるの。
そして、私たちを生かしてくれているこの世界は限りなく広くてそして、とても美しくて尊いものなんだよ。」

まあ私はここからの景色以外、あんま見たことないんだけどね~と笑いながら言う君。
考えたことすらなかった。この世界が美しいなんて

理不尽で残酷で冷たく悲しい、40歳を過ぎたらタヒにたいとばかり思いながらここまで生きてきた俺には
君という存在がとてつもなく美しく見えた。

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それから12年。
あの日君にああ言われたあと、俺は本気で自分を変えたいと思った。
それからはとにかく、がむしゃらに走った。
つまらないと馬鹿にしたことも何でもやったし、必要だと思ったものにはどんどん手をだした。

そのかいあってなのか、ただの偶然なのか俺は夢であった本を書く仕事に就くことができた。


「締め切りに追われて忙しい毎日だけど...まあ何とかやっていけそうだよ、それなりに充実しているしね。」

いつものように窓の外を眺めながら、机に置いた写真に話しかける。
優花は俺と結婚したその1年後に亡くなった。
病が進行し、もう治療も不可能な状態になったため本人の希望で最後は家で眠るように死んだ。

なぁ、見てるかい優花 俺は夢を叶えられたよ。
でもまた新たに夢ができた、俺の書く本で誰かの人生の手助けをしたいんだ。君が俺にしてくれたように
俺はまだそっちには行けないな、あんまり早いと君に怒られてしまうからね。
それじゃあ、また逢う時まで見守っていてくれ。優花

8/4/2023, 6:33:13 AM

【6,お題:目が覚めるまでに】

よく夢の中で「あ、いま俺夢見てるな」って何となく自覚するような感覚が度々ある。

たった今も夢の中にいることを自覚したばかりだ。


「......いやなんの夢これ。」

広い原っぱのような場所にポツンと立っている。空は蒼く澄みわたっていて日差しはほんのりと暖かい
夢の中なのに横になったらすぐに眠れてしまいそうなほどに、居心地のいい場所だ。
近くに川が流れているのか、ほのかに聞こえてくる水流音が眠気を誘ってくる。

「.........まぁいっか、どーせ夢だそのうち覚めんだろ」

せっかくなら、目が覚めるまでに少し探検してみようとおもむろに足を動かす。
踏みしめた感覚は完全に草原の草そのもので「ホントに夢だよな?」と疑心暗鬼になりかけながら歩を進めた。


しばらく歩くと風景が変わった。

「どこだ、ここ...」

いつの間にか辺りは緑の草原から、カラフルな花畑へ変わり
同じようにカラフルな蝶々がたくさん飛んでいる。

「...」 

何故だか、綺麗とは思えなかった。綺麗と言うより“嫌悪”というかすごく嫌な感じだ。
頭の奥になにかがへばりついてるような気持ち悪さがある。

不意に、一際目立つ真っ黒な蝶が腕にとまった。

「っ!やめろっ!」

バシッ!

思いきり手で振り払う、黒い蝶はふわふわとどこかへ飛んでいった。

「っっ!」

訳も分からずに走り出す、一刻も早くこの場所から離れなくては、そう感じた。
頭にあるのは“恐怖”とほんの少しの戸惑い、
何か“ある”
頭の奥底に黒い霧がかかっているようだ、何かがあるのにその何かが分からない
気持ち悪い。

「はっ...はっ...はっ...」

息が乱れる。
何だ?俺は何かを忘れている?何を?何故?
思い出せ、目が覚めるまでに

突然、目の前が大きく眩んだ。
目が開けられない、ああ覚めるんだと直感で理解した。

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ピッ...ピッ...ピッ...ピッ...

独特な匂いが鼻をつく。
目を開けて最初に視界に入ったのは真っ白な天井

あ...そうだ俺......

白い病室の中、小さな嗚咽がこだました。

8/2/2023, 2:54:47 PM

【5,お題:病室】

5歳の時に喘息の発作で初めて救急車に乗った。
酸素マスクをしないとろくに息ができない程酷かったから、入院はすぐに決まった。
母さんの付き添い入院は出来ないようだった。
3歳の弟は目が離せない時期だし、預けられるような親戚も居ないから
仕方がないと自分に言い聞かせたがやっぱり心細くて、
帰ってしまう母の背に「置いてかないで」と叫んですがった記憶がある。

でも、寂しさはすぐに吹き飛ぶことになった。

入院して3日目家よりも味が薄くて物足りない食事の後、私は外を眺めていた。
絵本もDVDも見る気にならなくて、親と手を繋いで帰る子どもを恨めしそうに眺めていた。

その時だった

ガササッ!

「!えっ...何?」

病室の窓から見える大きな木、たまに伸びすぎた枝が部屋の中に入ってきて部屋が葉っぱまみれになってる。
その木に白い服の小さな男の子が引っ掛かっていた。
パッと見、同い年くらいだろうか?干された布団みたいに伸びている男の子に、私は恐る恐る声をかけた。

「え...っと、大丈夫?」

「うぅ...、...っ!?」

目が回っているのか、ふよふよと視線が定まらない男の子
不意に目が合い、「あ、どうも」と小さく会釈したら急速に意識が覚醒したのか
驚いてバッと飛び上がった。

白い服に白い肌と髪、とにかく「白」という印象の男の子だった。そして特にその中でも目を引いたのは
背中から小さく覗く、これまた真っ白な“羽”だった。

「あなた、飛べるの?」

点滴に繋がれた左手を引っ張り、精一杯体を乗り出して好奇心のままに男の子に尋ねる。
男の子は少しの間、下書きを書いては消すように何度も口をパクパクさせていたが
やや間があってから「飛べるよ」と答えた。

「まぁ、あんまり上手くないけどね...」

「ふーん」

話すことはもうないとばかりに、そそくさと飛び立とうとする男の子に私は待って、と声をかける。

「明日も来て!この病室、他に誰も居ないの寂しくてどうにかなっちゃいそうなの!」

「...!......いいの?」

「っ!もちろん!」

それから完全に退院出来るまでの7年半、その男の子は毎日欠かさずに病室に来てくれた。
そしてどこから持ってくるのか、花やちょっとした遊び道具を運んできた。

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5歳の私が一人ぼっちの入院生活に耐えられたのは彼のおかげだと思っている。
彼が居なければ私の入院生活はもっと苦しいものだっただろう。

そして、後で聞いたことだけどあの病室は“特別”で、親が付き添えない子供たちの部屋なのだそうだ。
何でもその部屋には幽霊が居て、親から引き離された子供をたちの面倒を見てくれるとか

他にも彼に救われた子がいるのだろうか?

彼は小さな部屋の主治医だ。


8/2/2023, 3:39:43 AM

【4,お題:明日、もし晴れたら】

明日もし晴れたら、久しぶりに散歩に行こう。
この前行けなかった美味しいと噂のパン屋まで行こう。

明日もし晴れたら、晴れた日の空を描こう。
部屋から眺めるんじゃなくて外に出て絵を描こう。

明日もし晴れたら、彼女を誘って出掛けよう。
彼女おすすめの場所に連れてって貰おう。

明日もし晴れたら、明日もし晴れなくても

灰色の雲と濡れたアスファルトの匂いを美しいと思える人になりたい。

7/31/2023, 2:42:14 PM

【3,お題:だから、1人でいたい。】

いつからだろう、最初はこんなんじゃなかったんだけどな

昼なのにカーテンが閉まった部屋は肌寒く薄暗い
途中で気持ち悪くなって食べるのをやめたカップ麺が布団の横に置いてある

僕はいつの間にこんな醜くなったんだ。

人との関わりが怖くなった。職場の人間関係が上手く行かなくなった。
人を信じられなくなった。どんな言葉にも裏があるように感じるようになった。
人に頼るのが下手になった。弱さを晒すのがこんなに怖いなんて知らなかった。

朝が来るのが怖い、でも夜の闇が恐ろしくて眠れない。

毎日のように送られてくる「もう大人なんだから」のメッセージ
なにも言えなくて既読だけつけてまた布団にもぐる。

うるさい

分かってるよ

分かってるけど

子供の頃夢見た世界はなんだったのか、あんなに楽しげに映った社会はフィルターにぼかされた偶像だった。
歳を重ねる程にどす黒いリアルに飲み込まれて、子供の時の夢ももう言えない。

もう僕に構わないでくれ、精一杯生きてんだ。
触れられたら壊れてしまう、次に叩かれたら耐えられない

こんなウジ虫みたいに生きてる僕だけど、死ぬのはごめんだ。だから僕は1人になることを選んだんだ。

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