無音

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【7,お題:つまらないことでも】

俺は聞く「毎日窓の外ばっか見てつまらなくないのか」
君は答える「つまらなくなんかないよ」と、

事故で入院したとき初めて君にあった
窓の外を眺めてピクリとも動かないから、最初は人形なんじゃないかと思ってしまった。
こっちを向いた君と目があって、なんて綺麗な人なんだろうととても驚いたのを覚えている。
驚いて馬鹿みたいに口を開けてる俺に、くすっと笑って君は言った。

「こんにちは、いい天気ね」

君はその名を“優花(ゆうか)”と言った。


優花の病室に通うようになって何ヵ月かしたときこんな質問をした。
「窓の外ばっか見ていてつまらなくならないのか?」
優花は初めてあったときみたいにくすっと笑って答えた。

「あーそれよく言われるなぁ...、別につまらなくなんかないよ。というより、テレビとかYouTubeよりもずっと面白い」

意外だ、てっきり病気で外に出れないから仕方なく眺めているものだと思っていた

「みんな、つまらなくないのー?って聞いてくるけどこういう習慣ってすごく大事だと思うんだ~
当たり前すぎて忘れてるけど、私たちみんな生きてるんだよ。この世に存在していて、息をしてるの。
そして、私たちを生かしてくれているこの世界は限りなく広くてそして、とても美しくて尊いものなんだよ。」

まあ私はここからの景色以外、あんま見たことないんだけどね~と笑いながら言う君。
考えたことすらなかった。この世界が美しいなんて

理不尽で残酷で冷たく悲しい、40歳を過ぎたらタヒにたいとばかり思いながらここまで生きてきた俺には
君という存在がとてつもなく美しく見えた。

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それから12年。
あの日君にああ言われたあと、俺は本気で自分を変えたいと思った。
それからはとにかく、がむしゃらに走った。
つまらないと馬鹿にしたことも何でもやったし、必要だと思ったものにはどんどん手をだした。

そのかいあってなのか、ただの偶然なのか俺は夢であった本を書く仕事に就くことができた。


「締め切りに追われて忙しい毎日だけど...まあ何とかやっていけそうだよ、それなりに充実しているしね。」

いつものように窓の外を眺めながら、机に置いた写真に話しかける。
優花は俺と結婚したその1年後に亡くなった。
病が進行し、もう治療も不可能な状態になったため本人の希望で最後は家で眠るように死んだ。

なぁ、見てるかい優花 俺は夢を叶えられたよ。
でもまた新たに夢ができた、俺の書く本で誰かの人生の手助けをしたいんだ。君が俺にしてくれたように
俺はまだそっちには行けないな、あんまり早いと君に怒られてしまうからね。
それじゃあ、また逢う時まで見守っていてくれ。優花

8/4/2023, 11:52:46 AM