まよなか

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5/26/2025, 6:09:33 PM

銃声。その瞬間世界の時間の流れがゆっくりになって、まるでパラパラ漫画のようにあなたが床に倒れ込む。ドサリという音と共に、あなたは動かなくなった。

「───!」

あなたを中心に床が赤に染まる。私はあなたに駆け寄って、無駄だとわかっていても必死に赤を掬ってあなたの体に押し付ける。

「───!───!」

目の前が滲む。手が赤に染まる。それでも私は少し冷たくなったあなたの体を暖めるように抱きしめて、私の熱を分け与え続ける。

「──…!」

再び銃声が聴こえて、私の体が燃えているかのように熱くなる。それでも私はあなたを庇うように、これ以上あなたが傷つかないように体を覆い隠して、そして。

「───、あいしてる」



「君の名前を呼んだ日」
2025/05/27

5/17/2025, 6:00:04 PM

ふと瞼を開くと、真っ暗な空間に立っていた。
いや、もしかしたらここは真っ暗なのではなく、真っ黒な空間なのかもしれない。しかし今の状況はどちらも同じようなものだとぼんやり考えながら、自然とその先の見えない空間を歩き始める。ここが真っ暗なのか真っ黒なのか、それはさほど重要では無いように思えたからだ。前に進まなければならない。

しばらく歩いて、突然、何も無いところで転びそうになった。視線を下に向けて慌てて踏ん張ると、硬いものに頭をぶつけた。
それは扉だった。突如目の前に現れた金に輝く派手なこの扉は、真っ暗な空間で明らかに異様な雰囲気を醸し出している。
試しに全身を使って体当たりするように押してみるが、まるでビクともしない。

「救いたかった世界があった」

いきなり聞こえた声に驚きながら、声がした方を見る。扉があった。その声がした扉は金の扉とは違う、明らかに年季の入った、老朽化の進んだボロボロの扉だった。扉の隙間から見える「向こう側」は、暗闇に包まれている。

「守らなければならない人たちがいた」

反対を見るとまたしても扉があった。扉は煤で汚れた跡があり、扉の「向こう側」はゴウゴウと燃え盛る炎に覆われている以外に何も見えない。

「思い出せないのなら、それでもいい」

「新しい世界として繰り返そう」

金の扉に向き直ると、扉には金に輝く取っ手が着いている。そこでなんとなくこれは引くのかもしれないと考えが浮かんで…。
何故か漠然とした不安な気持ちも同時に湧き上がらせながら、取っ手を力強く掴んで引いた。


「成功するまで、何度でも」




「まだ知らない世界」
2025/05/18

5/14/2025, 3:54:06 PM

君と僕が一緒にいることは、当たり前だと思っていた。
笑って、泣いて、驚いて、時々ケンカして。これから先どれだけ歳を重ねても、一緒に感動をシェアしていくんだって。

そう思ってた。


ひとりで食べるご飯は味気ない。映画は誰とも感想を言い合えない。

君と一緒に行った水族館。手を繋いで歩く家族、ベンチで肩を寄せ合うカップル。全ての光景が僕たちと重なる。息苦しくて、目の前が滲んできた。


「酸素」
2025/05/15

5/13/2025, 4:38:16 PM


あなたが私を忘れても、私が覚えてる。
あなたが私を忘れても、また友達になる。
あなたが私を忘れても、また親友になる。
あなたが私を忘れても、また恋人になる。
あなたが私を忘れても、また夫婦になる。


海水が蒸発して雲になって、雨となり川を下って海へと再び流れ着くように。

私は何度でも「愛してる」を込めて、「はじめまして」って言うよ。



「記憶の海」
2025/05/14

5/11/2025, 6:32:25 PM

「川の向こうへ行きたいなら六文だ」

頭の一部が欠けた船頭が、俺を見て歯をむき出してケラケラと笑った。

俺は気がつくと白い服を着て、この大きな川のほとりに立っていた。しばらくぼうっと立っていると、対岸から小舟がやってきて今に至る。
俺はズボンのポケットをまさぐるが、硬貨など入ってなかった。

「おや、持ち合わせがないのか?なら舟に乗せてやる訳にはいかねぇな」

何が可笑しいのか、船頭が再び大きく笑う。
するとその頭がボロボロと崩れ落ちた。船頭は慌てた様子もなく落ちた顔の欠片をかき集めると、慣れた手つきでその欠片をおにぎりのように塊にして元の辺りに押し付ける。塊は不思議と、再び顔にくっついたようだった。

「おめぇさん、こっち側は危険だぜ?向こう岸に渡れない、金の払えないやつは…。この川のほとりの番人共に、恐ろしい目にあわされるって噂だ」

その言葉に俺は焦って、今度は念入りに服の中をまさぐる。ズボンの前ポケットと後ろのポケット。胸元…。冷や汗をかきながら思いつく限りを探していると、やっとの思いで靴の底から音がした。
靴を脱いで五円玉のような小銭を取り出す。

一、二、三、四、五、六…。六文、ちゃんとある。

「はっ、大方棺桶に入れ忘れて、四十九日に届けてくれたんだろうよ。運が良いな」

船頭は六文を受け取ると、俺に一枚の紙を渡した。

「乗船券だ。大事に持っておけ」

俺はその言葉に頷いて舟に乗る。船頭は濃い霧に包まれた川の奥へと、ゆっくりと舟を漕ぎ始めた。
そしてたった一人の客のために、口上を述べる。


「本日はご乗船ありがとうございやす。本船は現世発、来世直通の舟となっておりやす。どうぞ、暫しの船旅をお楽しみください───」



「未来への船」
2025/05/12

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