貴方を見ていると、たまに自分を見ているような気持ちになる。
いつも真っ直ぐで、曲がった事が許せなくて、傷つくのが嫌で、笑顔が素敵で、たまにする困った顔や驚いた顔も素敵で…。貴方の良いところを上げると、私とは真反対の人に見えるけど。
たまに貴方が酷く苦しんでいるように、生き辛そうに見えて。
それが私と重なるの。
『鏡』2024/08/19
一学年一クラスで総生徒数も100人に満たない小学校に通っていた。
当時はクラス全員…と言っても、同級生の男の子は5人くらいしかいなかったのだが、友チョコとして全員にチョコを買っては贈っていた。
その所業の善悪は兎も角、誰に何を贈るか考える時間はとても楽しかった。
ロボアニメ好きの友人にはそれに関連したチョコを用意したし、サッカーを習っていた友人にはサッカーボールの包み紙の物を選んだ。
…いつ頃からだったかはっきりとは思い出せないが、恐らく思春期に入った頃だろう。それまで楽しいと思っていた「贈り物を選ぶ」事が、気恥ずかしくて嫌になってしまった。
だが、それが良くなかった。
それまで毎年欠かさず父親にもチョコレートを渡していたのに、気恥ずかしさから準備をしなかった、たった一度、用意しなかった年のその春に、父親は病気で亡くなった。私は酷く後悔した。
断じて父親の事が嫌いではなかったし、むしろ円満な仲であったのに、つまらない気持ちの移り変わりのせいで一生を後悔する出来事となってしまった。
海外では男性から女性へ。が主流ではあるが、折角日本では良いように捉えられるイベントなのだ。
誰かが誰かへと、どんな気持ちかどうかは限らず、伝えるきっかけとなる、良いイベントになる事を願う。
『バレンタイン』2024/02/15
ある日、画面の向こうの君が吐露した一言。
『本当は、すごく辛い』
ずっと夢を叶える為に頑張っていた君が、いつも誰に対しても笑顔で話をする君が、初めて弱音を吐いた。
話してくれてありがとう。君にとって、ここは本音を言える場所になったんだね。信頼して、安心してもらえる場所になったんだね。
いつも頑張っててすごく偉い!って思う反面、体を壊さないか、ずっと心配していた。
いつも笑顔の君はとってもかっこよくて素敵で、そんな君を見ていて私は笑顔になれるし、元気が出てくる。
だからこそ、そんな君の事を大事にしたいって、応援したいって思うんだよ。
休んだっていい。君が辛い時は、君が元気になれる方法で元気になって欲しい。
欲を言えば、いつかまた帰ってきて欲しいけど、でも君が元気で過ごしているなら、それでもいい。
本当にありがとう。
またいつか、あの素敵な笑顔に会えるといいな。
『伝えたい』2024/02/12
伝えたい事、伝えられる内に。
ふらりと立ち寄った、とある一件の喫茶店。
窓辺の席に座り、レースカーテンから漏れる暖かく柔らかい光に照らされる彼女は、まるで天使だった。
日中は喫茶店、夜はジャズバーとなるこの店にはマドンナがいる。
日が傾き、店がバーに切り替わると、マドンナの父親が気ままにアコースティックギターを鳴らす。それに合わせてマドンナは軽快に歌い出す。誰もがその姿に夢中なり、心を惹かれ、そして儚く散っていった。
店の近所の男や連れ合いの友人、果てはマドンナの噂を聞きつけて、遠方よりはるばるやってきた男など、様々な男がマドンナへとアタックしたが、彼女は決まってこういうのだ。
「ごめんなさい、好みじゃないの」
ストレートな言葉に肩を落としすごすごと去る男たちを横目に、私は到底勇気が出なくて。
しかしせめてマドンナの歌が聴きたいと思い、ひたすら店に通い続けていた。
「ねえ」
ある時、何曲か歌い終えたマドンナが他の男との会話を適当に切り上げ、私に声をかけてくれた。
「いつも来てくれてありがとう」
「あ、ああ」
「どうしていつも来てくれるの?」
零れ落ちそうな程丸くて大きな瞳が、私を真っ直ぐに見つめる。まるで宝石のようだと思った。
「君に、会いたいから」
「これまで一言も話した事なかったのに?」
「ああいや、君の歌のファンでもあって…。声も、歌う姿も…、その、とても素敵だ」
顔が熱くなり、気恥しさから俯いてしまう。だがそんな私の様子にはお構い無しに、彼女は私の手を取った。
「本当に…?嬉しい!」
目を細めてにっこりと笑う彼女をちら、と見て、やはり私は照れ隠しに俯き今度は視線を泳がせた。
「あなた、ギターは弾ける?ピアノでもいいわ」
「ピアノなら少し」
いよいよ黒い宝石が零れるのでは無いかと思うくらい、彼女は目をまん丸にして、私の手を引いた。
「一緒に演奏しましょ!」
まさかこの一言からこの先何十年と彼女と共に生きていくことになろうとは。
久しぶりの鍵盤に戸惑いを隠しきれないこの時の私は、きっと微塵にも思わなかっただろう。
『この場所で』2024/02/12
しばしば「お前には人の心が無いのか」と言われる。私は至って効率的かつ合理的な提案をしているつもりなのだけど、その度に「それは無情すぎる」と言われ、その後から相手にされなくなる。
そしていつも考える。「一体何が悪かったのだろうか」と。皆目見当もつかないのだ。
情のある提案とは、一体なんなのだろうか。
しばしば「ちゃんと話を聞いているのか」と叱られる事がある。私はちゃんと聞いていたので、相手が喋っていた事をそのまま復唱するのだけど、そうすると何故か気に入らなさそうな、苛ついたような態度を取られる。
そしていつも考える。「一体何が悪かったのだろうか」と。皆目見当もつかないのだ。
「聞いていなかった」と、嘘をついたら良かったのだろうか。
何故いつも、私を責め立てるのだろうか。
『誰もがみんな』2024/02/10