列車に乗って
見慣れた景色が通り過ぎてゆく。
いつもなら何も思わないその景色に、私の心臓がヴェールに包まれたかのような錯覚を覚えた。
馴染みの土地を離れ、見知らぬ土地でひとり生きていく。
……もう、取り返しはつかないんだね。
いつのまにか知らない景色を映している窓。
共に映る私は、なんだか大人な顔をしている。
遠くの街へ
今日も夢を見たい。
だって夢は、私を毎日いろんな場所に連れていってくれるもの。
おなじみの場所から、知らない街まで。
幸せな夢から、怖くて辛い夢まで。
夢の中で、たくさんの街を旅してきた。
今日は何処に連れていってくれるの?
いつもと同じようで違う私の家?
ハチャメチャな日常が待ってる学校?
私しか知らない、遠くの街?
現実逃避
ずうっと明るい場所にいたい。
君は今
毎日のように顔を合わせるのも、今日で最後かもね。
卒業式の日、君といつも通りに喋っていた。
思い出話に花を咲かせながらも、話題は徐々に未来のことに移っていく。
「君はどこ高校行くんだっけ?」
「港の方の自称進、第一志望受かって良かったよ。君は?」
「僕は――」
君と交わす他愛もない会話。
すっかり使い込まれた、だっさいセーラー服。
君と歩く、夕焼けに染まった帰り道。
君と過ごす、当たり前の日常。
その全てがこれで最後なんだと思うと、何ともいえない感慨と寂しさに包まれたように感じる。
あれから一年。
一人で歩く、宵闇の垂れ込めた帰り道。
君も、同じようにここを歩いているのだろうか。
物憂げな空
何でもない曇り空が、今日は寂しく見える。
青空に照らされたリビングでぽーっとしていると、何処か郷愁のようなものを感じる。
小さい頃を思い出すからなのかもしれない。
成長するほど記憶は色褪せ、曖昧なものになる。
あまりにもふわふわした記憶は、昔過ごした時間は幻だったのではないかと錯覚させることがある。
でも、身の回りの至る所にあの頃を生きた痕跡がある。
タンスへの落書き、昔使っていた自由帳、いつからか飾らなくなったクリスマスツリー……
春が近付くと、私の胸にはいつも寂しさが付きまとう。