クリームソーダから星が溢れる。人工着色料で彩られたメロン色の炭酸の泡がはじけて、グラスの上できらきら光る。
たった今ユウキくんから言われた言葉の意味を拾えず、私の気持ちはクリームソーダの水面の上で爆ぜていた。
「え、なんか、ないの」
ユウキくんのうわずった声。
「え?」
「え、ああ、いや、まあ」
ユウキくんはせわしなく視線を泳がす。クリームソーダ、テーブルの紙ナプキン、窓の外。明らかに私と目を合わせるのを避けている。ファミレスの中は暖かいのに、耳の先が真っ赤だ。
「えーと」
落ち着かない様子のユウキくんを見ていたら、なんだか私まで落ち着かなくなってしまって、赤いストローでグラスの中の氷をつついたりしてみる。グリーンの海に隠れていた炭酸の泡がしゅわしゅわ現れて、立ち上り、水面の泡は激しく爆ぜだす。
ユウキくんに言われた言葉が、じんわりと私の心の中に広がっていく。
「えーと、えーと」
顔が熱くなっていく。思わず手で頬をおおう。今まで考えたこともなかった点と点が繋がっていく。
そういえば、他の女の子と喋ってる時に比べて、私と喋っている時だけちょっと早口になっていたこと。
そういえば、図書委員会といい、文化祭で教室の飾り付けをする係になった時といい、なぜか一緒に組んでやるのが多かったこと。
そういうことだったのか。
全然気付かなかった。
なんだかやたらと視界に入ってくる人だなと思ってはいて、いやいや地味な私に限って、しかも彼に好かれているだなんて考えられないし、たぶん私の思い込みだと割り切って、今日も今日でお気に入りのメロンソーダが飲めるとほいほい喫茶店へ誘い込まれてしまったけれど。
メロンソーダの氷がカランと音を立てて、上に乗ったアイスがくるりと踊り、おしゃまに傾いた。
「あ、まあ、とりあえず」
ユウキくんはあらぬ方向を見たまま、手でメロンソーダを指し示す。
「い、いただきます」
とりあえず、食べよう。
食べ終わったら、私の気持ちもちゃんと言えるかな。
嬉しさでにやけそうになるのをこらえて、ほてった顔を冷ますように、私は溶けはじめたアイスを口に入れた。
【お題:星が溢れる】
「あなたのこと、もっと知りたいです!」
「放っといてくれ」
「やです」
路地裏の暗がりで、ボロボロのエアコンの室外機に座る陰気な俺に全く物怖じせず、ゆるふわガールはニコニコしながらこちらに近づいてくる。
長年ここにいて、俺に声をかけてきたやつは何人かいたが、こんな場違いなやつがきたのは初めてだ。
「知ってどうする」
「面白そうだから!」
満面の笑み。
「あなたのこと、なんでも良いから知りたいんです。好きなこと、嫌いなこと、得意なこと、苦手なこと。お父さんお母さんはどんな人だったのか。休みの日はどう過ごしていたのか。あと」
どうして自分から死んでおいて、こんな場所に縛られているのか。
「てめえ……っ!」
追い払うつもりで、塀に立てかけられていた鉄パイプを蹴飛ばす。
しかし彼女は笑みを崩さず、鉄パイプを片手でいとも簡単に受け止める。
「あはは、なんだか生きてる人間みたいですね」
彼女はその華奢な腕で、鉄パイプを勢いよくこちらに倒してきた。それは俺の体をすり抜け、塀や道にぶつかって甲高い音を立てて転がった。
「久々に、やりがいある人みたいで楽しそう」
ぺろりと出したその舌に、髑髏のピアスが光っていた。
【お題:もっと知りたい】
株式会社ラブ&ピースに勤める平和太郎(たいら・わたろう)こと俺は、連日の深夜残業によりついに寝坊、持ち前の低血圧とパニックにより頭の中は真っ白になったが、会社内での愛と平和に忠誠を誓った俺は、走れメロスも道を譲るほどの烈火の猛ダッシュにより駅に到着、今からくる電車に飛び乗れば始業時間の5分前には間に合うと安堵したのも束の間ちなみにこの安堵はラブ&ピースにかかっているわけではない、妙齢の淑女が改札の途中で止まってしまったではないか。
【お題:愛と平和】
(※この話はフィクションです。実際の組織、団体には一切関係ありません)
【お題:過ぎ去った日々】
「お金より大事なものがあるでしょ」
「それあんたが言うセリフか?」
宝くじ売り場の窓口のおばちゃんは、俺の声が聞こえないフリをして続ける。
「私は見てきたのよ。大金を手にした事で人生が狂ってしまった人たちを。あなたまだお若いでしょう、まともな人生を歩んでほしいのよ」
おばちゃんは手にした紙切れをなかなか手放さない。
「いいから早く引き換えてくんない?」
「ええ、ええ、分かるけどね。大事な話だから」
その紙切れは、先日俺が買った宝くじ。
引き換えれば、数ヶ月は遊んで暮らせるくらいの。
それまで事務的だったおばちゃんだが、その当たり金額を見てから目の色が変わり急に説教を始めたのである。
「今の時代じゃお金を払えばなんでもサービスがあるっていうけどね、大切なのは支え合いよ、人情なのよ」
そして俺は見た。危うく見逃すところだった。おばちゃんが、俺の当たりくじを別のくじにすり替えようとしたところを。
「おい!」
とっさに手を伸ばす。が、宝くじ売り場もといチャンスセンターの窓口に開いた穴は数センチ幅ほどしかなく、ギリギリ指が入る程度だ。その指先で、なんとか当たりくじを取り押さえた。
「何してんだよ!」
「あなたの覚悟を試したのよ」
不正未遂をしたにも関わらず、おばちゃんは涼しい顔をしている。こいつ、やばいぞ。
そしてさらにやばいことに、窓口の穴から指が抜けなくなってしまった。
「ほら、そうやってお金にがめついから指が挟まるのよ」
「うるせえええ!」
宝くじ売り場にいるあんたが言うんじゃねえ!
もうやめだ。別の場所で交換しよう。そのためにも挟まった指を抜いて、当たりくじを奪還しなければならない。
「おーい、早くしてくれー」
背後にできた行列から、お金に希望を求める人々の嘆きが聞こえる。
【お題:お金より大事なもの】