彼女は目を閉じて、ほんのり赤らめた右頬をこちらに向けた。
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瞳を閉じる、という表現が不思議な感じがしてしまう。
目そのものという意味もあるので間違いではないが、瞳はもともと瞳孔、目に入る光の量を調節する穴のこと。受けた光の量によって反射的に穴が拡大・縮小するものであって、意識的に調節することはできない。
とすると、まぶたを閉じるよりも瞳孔を縮小させることの方が神秘的というか、心の目を閉じるような、そんなイメージがある。なんとなく。
【お題:瞳をとじて】
「作りすぎちゃったんで、どうぞ」
眉尻を下げて、申し訳なさそうな顔で差し出された特大から揚げ。でかすぎて台湾の、ほーだいじーぱいぱいみたいな名前の鳥の揚げ物みたいになっている。弁当箱に入っていたとは思えないサイズ。重さにお弁当ピックがしなっている。
おれはごくりと唾を飲む。
「あ、もしお腹いっぱいだったら無理しないで下さいね」
お腹はいっぱいである。でも無理したい。絶対美味しい。黄金色の衣が輝いている。これに衣替えしたい。でも駄目だ。おれは昨日ライザップに入会したんだ。ちょこっとじゃない方、ガチザップの。こんなのに衣替えしたら決意が揺らいでしまう。黒背景の暗めのスポットライトでうつむいて台の上で回り続けないといけなくなる。
追い討ちをかけるように、彼女はから揚げをずいと寄せてきた。めっちゃ良い匂い。スパイスの。
「さすがに作りすぎじゃない?」
昨日ダイエット始めた話をしたはずなんだけど。
故意だと思う。故意だよこれは。
彼女は声をひそめて、
「作りすぎちゃえ、と思って」
なんてことを。
「いやいやいや」
「やめておきます?」
じっと見つめてくる目には、期待が込められていて。
おれは観念して、から揚げの刺さったピックを受け取る。おっもいなこれ。
一口かじると、冷めているのに揚げたてみたいだ。カリカリの衣、ふわふわの鶏肉。
「うっま……」
「痩せなくて良いですよ」
彼女はにっこり笑う。
【お題:あなたへの贈り物】
「明日なんか来なければいい」
机に突っ伏して君がうめく。カフェインドリンクの空き缶が机から転がり落ちて空虚な音を立てる。
「明日は来るよ。っていうかもう今日だよ」
時計は0時を過ぎている。
「うわああ」
「なんで今までやってなかったのよ」
「だって、だって」
パソコンのテキストメモは真っ白。いや、辛うじてレポートのタイトルと名前は書いてある。
これを今日の2限、10:45までに
【お題:明日に向かって歩く、でも】
何も思いつかないんたが。どうしよう。
「ただひとり」という言い方をするのは、例えば「僕が愛したのはこの世界でただひとり」とか「この試験に合格したのは〇〇さんただひとり」とか、要はある厳しい条件のもとで選ばれた一人を指すものであって、あんまりそういうの縁がなかったのかも。
「君へ」ということは何か伝えることがあるのだろうけど、特にそういう選ばれた人に言いたいことはないしなあ。
えーと。頑張ってください。
ごめん。何も思いつかない。
【お題:ただひとりの君へ】
【お題:あたたかいね】