Morita

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なんだその巨大なふ菓子は。

菓子屋横丁の軒先で、一人でメンチカツ(200円)を頬張っていたら、視界の端から野球バットかと見まがうほどのふ菓子が現れて。案の定、田丸だった。

「食べ切れんの?」
「余裕」

田丸はふ菓子を肩に担いでドヤ顔である。バーコードには会計済みの黄色いシールが貼られていた。

「そういうの好きだよね、田丸」
「メンチカツもうまそうだな」
「食べることばっかじゃん」

6月はじめの火曜日。我々は社会科見学の名目のもとで、川越に来ていた。

晴れていればもっと楽しかったかもしれないが、あいにく本降りの雨。そして肌寒い。

本当はグループ行動の時間だが、湿気で髪がまとまらず機嫌の悪くなったルリコがウェルシアの化粧品コーナーに立ち寄りたいと言い出し、私が抵抗して「ここは予定通り川越まつり会館に行った方が良い」と言ったら喧嘩になり、取り巻き女子と共に行ってしまった。

こんなどうでもいいことで、後で先生に怒られるのは私なのだ。あつあつのメンチカツでも食べないとやってられない。

そういえば、田丸も一人だ。

「他の人は?」
「どっか行った」
「どっか行ったって」
「知らん。あんなやつら」

田丸は膝で勢い良くふ菓子を割った。どうやら彼も苦労しているようだ。

「え、中は黄色なんだ」
「サツマイモ味らしい」
「へー」

外側は紫で中は黄色。たしかにサツマイモっぽい。

「いる?」

ふ菓子が差し出される。

「じゃあ」

自然な流れで受け取ってしまった。
とっさに頭の中で「タダヨリ タカイモノハ ナイ」「ナニカ オカエシガ ヒツヨウダ」と律儀星人リチギーン、リチギーンってなに? が騒ぎだしたが、なんかまあ、田丸だしいいか、と思ったら、急に肩の力が抜けた。気付かない間に気を張っていたらしい。

私はふ菓子にかぶりついた。

雨樋から地面へ落ちる雫が、リンリンと鉄琴のような音を立てている。










思わず笑い出しそうになり、とっさに傘で顔を隠した。

【お題:傘の中の秘密】

6/3/2025, 6:33:40 AM