Morita

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「お金より大事なものがあるでしょ」
「それあんたが言うセリフか?」

宝くじ売り場の窓口のおばちゃんは、俺の声が聞こえないフリをして続ける。

「私は見てきたのよ。大金を手にした事で人生が狂ってしまった人たちを。あなたまだお若いでしょう、まともな人生を歩んでほしいのよ」

おばちゃんは手にした紙切れをなかなか手放さない。

「いいから早く引き換えてくんない?」
「ええ、ええ、分かるけどね。大事な話だから」

その紙切れは、先日俺が買った宝くじ。
引き換えれば、数ヶ月は遊んで暮らせるくらいの。
それまで事務的だったおばちゃんだが、その当たり金額を見てから目の色が変わり急に説教を始めたのである。

「今の時代じゃお金を払えばなんでもサービスがあるっていうけどね、大切なのは支え合いよ、人情なのよ」

そして俺は見た。危うく見逃すところだった。おばちゃんが、俺の当たりくじを別のくじにすり替えようとしたところを。

「おい!」

とっさに手を伸ばす。が、宝くじ売り場もといチャンスセンターの窓口に開いた穴は数センチ幅ほどしかなく、ギリギリ指が入る程度だ。その指先で、なんとか当たりくじを取り押さえた。

「何してんだよ!」
「あなたの覚悟を試したのよ」

不正未遂をしたにも関わらず、おばちゃんは涼しい顔をしている。こいつ、やばいぞ。

そしてさらにやばいことに、窓口の穴から指が抜けなくなってしまった。

「ほら、そうやってお金にがめついから指が挟まるのよ」
「うるせえええ!」

宝くじ売り場にいるあんたが言うんじゃねえ!

もうやめだ。別の場所で交換しよう。そのためにも挟まった指を抜いて、当たりくじを奪還しなければならない。

「おーい、早くしてくれー」

背後にできた行列から、お金に希望を求める人々の嘆きが聞こえる。

【お題:お金より大事なもの】

3/8/2026, 1:07:38 PM