株式会社ラブ&ピースに勤める平和太郎(たいら・わたろう)こと俺は、連日の深夜残業によりついに寝坊、持ち前の低血圧とパニックにより頭の中は真っ白になったが、会社内での愛と平和に忠誠を誓った俺は、走れメロスも道を譲るほどの烈火の猛ダッシュにより駅に到着、今からくる電車に飛び乗れば始業時間の5分前には間に合うと安堵したのも束の間ちなみにこの安堵はラブ&ピースにかかっているわけではない、妙齢の淑女が改札の途中で止まってしまったではないか。
【お題:愛と平和】
(※この話はフィクションです。実際の組織、団体には一切関係ありません)
【お題:過ぎ去った日々】
「お金より大事なものがあるでしょ」
「それあんたが言うセリフか?」
宝くじ売り場の窓口のおばちゃんは、俺の声が聞こえないフリをして続ける。
「私は見てきたのよ。大金を手にした事で人生が狂ってしまった人たちを。あなたまだお若いでしょう、まともな人生を歩んでほしいのよ」
おばちゃんは手にした紙切れをなかなか手放さない。
「いいから早く引き換えてくんない?」
「ええ、ええ、分かるけどね。大事な話だから」
その紙切れは、先日俺が買った宝くじ。
引き換えれば、数ヶ月は遊んで暮らせるくらいの。
それまで事務的だったおばちゃんだが、その当たり金額を見てから目の色が変わり急に説教を始めたのである。
「今の時代じゃお金を払えばなんでもサービスがあるっていうけどね、大切なのは支え合いよ、人情なのよ」
そして俺は見た。危うく見逃すところだった。おばちゃんが、俺の当たりくじを別のくじにすり替えようとしたところを。
「おい!」
とっさに手を伸ばす。が、宝くじ売り場もといチャンスセンターの窓口に開いた穴は数センチ幅ほどしかなく、ギリギリ指が入る程度だ。その指先で、なんとか当たりくじを取り押さえた。
「何してんだよ!」
「あなたの覚悟を試したのよ」
不正未遂をしたにも関わらず、おばちゃんは涼しい顔をしている。こいつ、やばいぞ。
そしてさらにやばいことに、窓口の穴から指が抜けなくなってしまった。
「ほら、そうやってお金にがめついから指が挟まるのよ」
「うるせえええ!」
宝くじ売り場にいるあんたが言うんじゃねえ!
もうやめだ。別の場所で交換しよう。そのためにも挟まった指を抜いて、当たりくじを奪還しなければならない。
「おーい、早くしてくれー」
背後にできた行列から、お金に希望を求める人々の嘆きが聞こえる。
【お題:お金より大事なもの】
月を隠すなら、月の明るい夜が良い。
まるいニセモノが白く光る。
【お題:月夜】
金の糸で「絆」と刺繍されたお守りが打ち捨てられていた。
拾い上げ、前を歩くブレザーの背中に声をかける。
「ねえ、これ美冬の」
「いらない」
彼女の声はいつになく尖っていた。
「でも」
「いらないってば!」
差し出したお守りは手荒くはたかれ、足元の水たまりに落ちた。泥が跳ねて「絆」の文字が黒く汚れた。
「ちょっと」
「塾やめる」
「そんなこと」
「落ちた人間なんかいない方が良いでしょ」
みんなで一緒に志望校を目指そう。試験日直前に赤井講師から塾生全員に渡されたお守り。どこまで熱血なんだか、と失笑しながらも、私たちはおそろいのそれを試験日も、そして合格発表の今日も、持ってきていて。
「待ってよ、美冬」
立ち去ろうとするその腕をつかむ。意地でもこちらに顔を向けないが、その頬からいくつもの涙がこぼれ落ちていくのが見えた。
「離して。どっか行って。ひとりにして」
絞り出すような声だった。
「やだ。一緒にいる」
「今すごく、意地悪なこと言いそうだから」
「言っていいよ」
「なんなの」
「いちごパフェ」
「は?」
「ね、これから食べに行こうよ。試験終わったら一緒に行こうって、約束したじゃん」
「二人で受かったらの話でしょ、それ」
「食べたっていいじゃん」
受かっても受からなくても、美冬は私の大切な友達だから。
水たまりに落ちたお守りを拾い上げる。泥を拭いてもう一度差し出す。
「……前から思ってたんだけど」
お守りを見て、美冬がぽつりと言った。
「これ、デザイン、ダサすぎ」
「いやほんとそれな」
目を腫らした美冬は、私の顔を見てちょっと笑い、差し出したお守りを受け取った。
【お題:絆】