金の糸で「絆」と刺繍されたお守りが打ち捨てられていた。
拾い上げ、前を歩くブレザーの背中に声をかける。
「ねえ、これ美冬の」
「いらない」
彼女の声はいつになく尖っていた。
「でも」
「いらないってば!」
差し出したお守りは手荒くはたかれ、足元の水たまりに落ちた。泥が跳ねて「絆」の文字が黒く汚れた。
「ちょっと」
「塾やめる」
「そんなこと」
「落ちた人間なんかいない方が良いでしょ」
みんなで一緒に志望校を目指そう。試験日直前に赤井講師から塾生全員に渡されたお守り。どこまで熱血なんだか、と失笑しながらも、私たちはおそろいのそれを試験日も、そして合格発表の今日も、持ってきていて。
「待ってよ、美冬」
立ち去ろうとするその腕をつかむ。意地でもこちらに顔を向けないが、その頬からいくつもの涙がこぼれ落ちていくのが見えた。
「離して。どっか行って。ひとりにして」
絞り出すような声だった。
「やだ。一緒にいる」
「今すごく、意地悪なこと言いそうだから」
「言っていいよ」
「なんなの」
「いちごパフェ」
「は?」
「ね、これから食べに行こうよ。試験終わったら一緒に行こうって、約束したじゃん」
「二人で受かったらの話でしょ、それ」
「食べたっていいじゃん」
受かっても受からなくても、美冬は私の大切な友達だから。
水たまりに落ちたお守りを拾い上げる。泥を拭いてもう一度差し出す。
「……前から思ってたんだけど」
お守りを見て、美冬がぽつりと言った。
「これ、デザイン、ダサすぎ」
「いやほんとそれな」
目を腫らした美冬は、私の顔を見てちょっと笑い、差し出したお守りを受け取った。
【お題:絆】
3/6/2026, 1:19:17 PM