Morita

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1/7/2025, 10:14:18 AM

背中を押してくれる風のことを追い風と言うけれど、程度ってものがある。
せいぜい風速2,3mくらい、ちょっと強いなくらいが限度だ。
10mはやばい。台風じゃないか。


【お題:追い風】

1/6/2025, 12:59:55 AM

「やっぱり外で食べるミスドが一番だよなあ」

右手にエンゼルフレンチ、左手に黒糖ポンデリング。ミズキはそれを交互に一口ずつかじって、和と洋を楽しんでいる。なんて贅沢な。

「レイも食べなよ」
「いいよ。それより話ってなに」
「まあまあ」

まったく。急に公園に呼び出されて、来てみたらベンチでドーナツ食べてるだけじゃないか。

私は共通テスト対策の問題集にペンを走らせる。来週の試験までに、もう一周読んでおかなければいけないのに。

「ミズキだってC判定だったんでしょ、のんびりしてないで勉強したらむぐ」

甘々な糖衣と、サクホロ食感のドーナツが私の口の中でほどける。ミズキが私の口に押し込んだのである。

「やめてよ、喉乾くじゃん」

そう言いつつ、久々のドーナツの美味しさに思わず口元がゆるむ。
それを見たミズキはニヤニヤして、

「ほーれ、甘々ドーナツにおぼれるがよい」
「んふんふ……んふ」
「うまいか」
「んふふふ」
「よーしよし」

シャッターの音。ドーナツを頬張る私を、ミズキが撮っている。

「インスタあげるの?」
「ううん、これはあげない」

私の写った写真を眺めて、ミズキは満足げである。
冬晴れの日差しが、寒さで赤くなったミズキの頬を暖かく照らしている。

「これでまた頑張れるわ」
「え?」
「なんでも」
「なにー」
「レイもあんまり張り詰めすぎないようにね」

ミズキはエンゼルフレンチの最後の一口を食べ切ると、ベンチから立ち上がった。

「じゃ、私は塾行くわ」
「え、話って」
「別に。レイを餌付けしに来ただけ」

ミズキは私の肩をぽんぽん叩いた。

「色々落ち着いたらさ、またゆっくり話したいな」
「おうおう私もだよ」

私もミズキの肩をぽんぽん叩き返した。
それはなんだか温かくて優しい時間で、ミズキと別れて家に帰った後も、その温かさは胸の内に残っていた。

【お題:冬晴れ】

1/5/2025, 6:16:22 AM

幸楽苑のラーメンはやっぱりうまい。澄んだ醤油スープ、麺の喉越し。これぞザ・ラーメン。

「あれ、もしかして、ラーメン研究家の」

後ろで囁き声がする。俺のことを話していると分かったが、構わない。今はこの一杯に集中する。ずぞぞぞぞ。

「こだわりの一杯を追い求めて北は稚内、南は波照間島まで駆け抜けた、あの伝説の」

薄いチャーシューは噛みしめるたびに旨みが増し、ナルトの渦巻きは一度入ったら出られないラーメンの沼を表しているといわれる。いわれてない。今思いついた。

「冷静沈着、クールな評論家だと思ってたけど。あの人、あんなに美味そうに食べるんだ」

そして何より、この寒い中ですする熱い一杯!

「ッハーーーー!」

幸せは白く熱い息となって冬の空へのぼる。

【お題:幸せとは】

12/19/2024, 9:48:06 AM

今年も実家からみかんが送られてきた。
一抱えもある段ボールはずしりと重く、開ける前からみかんの香り。

『今年はいっぱい美味しいのできたからね。これを食べれば風邪知らずだよ』

三日前に母から電話がかかってきた。電話口で母は自慢げだった。
そこで私は聞いてみたのである。

「お父さん、まだ怒ってる?」
『あー』

しばしの間。母は振り返って父の様子を伺っているようだった。

『大丈夫じゃない? お父さんもびっくりしたんじゃないの。あんたが急に彼氏を連れてくるから』

「その節はご迷惑をお掛けしました」

『本当は嬉しいんじゃない? 分かんないけどさ。なかなか良い人だったじゃない。まためげずに連れてきなよ。今度は一緒にご飯でも食べよう』

「……ありがと」

みかんの箱を開けると、薄暗い玄関に橙色の灯りが灯るようだった。


【お題:冬は一緒に】

12/17/2024, 11:19:13 PM

「ミナ」
「なに」
「どうでもいい話して」
「どうでもいい話?」
「なんでもいいから」
「えーと」

萌乃の真剣な眼差しに戸惑う。私は彼女の冷えた手を温めるように包む。彼女は震えている。それは寒さだけじゃなくて。

「じゃあ、うまい棒が値上げした話とか」
「それは一大事だよ……」
「だよねえ」
「もっと。話して」

凍てつく風が、私たちの隙を吹き抜ける。

「えーと、私あの、めんたい味が好きだな。うまい棒なら。変だよね、本物の明太子は苦手なのにさ。萌乃は何味が好き?」

「……こんぽた」

今にも消え入りそうな声で、萌乃が会話を繋ぐ。

「そうなんだ。こんぽたも美味しいよね」
「いくらでもいける……」
「分かる。ね、いくらでもいけるよね。こないだラジオでさ、うまい棒一年分プレゼントとかやっててさ、一年分なら365本? でも一日一本で我慢できるとは思えないよね。一週間くらいで食べきっちゃったりして。食べ飽きちゃうかな。でもちっちゃい時から食べてたから、今さら飽きるなんて」

「飽きられたのかな、私」

私の手の上に涙が落ちる。萌乃の。

「なんでなのか、全然分からないの。なんでって聞いても、答えてくれないの。何でも話せる人だと思ってた。でも、そう思ってたのって、私だけだったのかな」

萌乃の胸のきしむ音が聞こえるようだった。
たまらなくなって、私は彼女を抱きしめる。糸が切れたように彼女は泣き出した。

「ずっと一緒にいられるって思ってたのに……!」

幼馴染に振られた彼女をなぐさめる言葉も見つからず、私はただ、彼女を抱きしめて温めることしかできなかった。

言い出すことなんてできなかった。
その幼馴染が昨日、私に好きだと言ってきたことなんて。


【お題:とりとめのない話】

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