「ミナ」
「なに」
「どうでもいい話して」
「どうでもいい話?」
「なんでもいいから」
「えーと」
萌乃の真剣な眼差しに戸惑う。私は彼女の冷えた手を温めるように包む。彼女は震えている。それは寒さだけじゃなくて。
「じゃあ、うまい棒が値上げした話とか」
「それは一大事だよ……」
「だよねえ」
「もっと。話して」
凍てつく風が、私たちの隙を吹き抜ける。
「えーと、私あの、めんたい味が好きだな。うまい棒なら。変だよね、本物の明太子は苦手なのにさ。萌乃は何味が好き?」
「……こんぽた」
今にも消え入りそうな声で、萌乃が会話を繋ぐ。
「そうなんだ。こんぽたも美味しいよね」
「いくらでもいける……」
「分かる。ね、いくらでもいけるよね。こないだラジオでさ、うまい棒一年分プレゼントとかやっててさ、一年分なら365本? でも一日一本で我慢できるとは思えないよね。一週間くらいで食べきっちゃったりして。食べ飽きちゃうかな。でもちっちゃい時から食べてたから、今さら飽きるなんて」
「飽きられたのかな、私」
私の手の上に涙が落ちる。萌乃の。
「なんでなのか、全然分からないの。なんでって聞いても、答えてくれないの。何でも話せる人だと思ってた。でも、そう思ってたのって、私だけだったのかな」
萌乃の胸のきしむ音が聞こえるようだった。
たまらなくなって、私は彼女を抱きしめる。糸が切れたように彼女は泣き出した。
「ずっと一緒にいられるって思ってたのに……!」
幼馴染に振られた彼女をなぐさめる言葉も見つからず、私はただ、彼女を抱きしめて温めることしかできなかった。
言い出すことなんてできなかった。
その幼馴染が昨日、私に好きだと言ってきたことなんて。
【お題:とりとめのない話】
12/17/2024, 11:19:13 PM