Morita

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12/16/2024, 11:31:49 PM

よくあるよね、恋愛漫画とかで。

一人が風邪を引いちゃって、もう一方が家に来て看病して、そこでイチャイチャしたせいで結局もう一人の方に風邪移しちゃうやつ。

風邪なめんなって。

なんで熱出てるかって、体が危険を感じてウイルスを追い出そうとしてるからであって、それを恋愛のトキメキにすり替えてもらっちゃ困る。

熱だぞ。出てんだぞ熱。辛いんだよ。一刻も早く治したいんだよ。本当に恋人のことを思うならイチャついてないで放っておくでしょうよ。引いてる方だってこんなもの移したくないし。

なんてことを前に言ったせいで、理解のある彼は全く見舞いに来ない。LINEもよこさない。

「お大事に。これ以降連絡は控えるから、しっかり休んで」

今朝このメッセージが来て、それきり。

気絶のような眠りを細切れに繰り返しながら、起きたら夕焼け小焼けのチャイムが流れていた。冬の弱々しい日差しが、閉め切ったカーテンを鈍く光らせる。38℃。ぜんぜん下がらない。

もうちょっと連絡くれないかな。

弱りきった心でそんなことを思ってしまい、そんな自分に嫌気がさす。彼は私の希望に沿ってくれた。なのに今さらやっぱり寂しい、連絡が欲しいだなんて、自分勝手にもほどがある。

学校はホームルームが始まる頃だ。彼はいまどんな顔で、誰と、何を話しているんだろう。

もし愛子と話していたら? 私が学校に戻った時、彼と愛子が仲良くなっていたら。悪い子じゃない。でも。

彼と愛子が手を繋いで帰り道を歩いている姿を想像して、急にぼろぼろ涙が出てきた。

弱りすぎだろ、私。あほか。
茶化してみようとするも涙が止まらない。連絡がないのは、もしかして私を気遣ってるからじゃなくて、愛子に心が傾いたから? だめだ。自分の妄想で自滅してどうする。

着信音。

はっとしてスマホを手に取ると、メッセージが一件。

『ごめん。やっぱお見舞いに行ってもいい?』

心のうちで花が咲いたようだった。
ふふふ、へへへ、と笑いながらスマホに頬擦りする私は、ハタから見たら変人だ。

早く風邪を治して彼に会いたい。

【お題:風邪】

12/13/2024, 1:25:09 PM


冷たい空っぽのタンブラーと、それからカフェの回数券。それらを私に差し出して、大男の彼はにこりと笑った。鼻と耳は赤く、外の寒さがうかがえる。

「いつものですか?」

彼はさらににっこり笑ってうなずく。

私は回数券をもぎる。
一枚一枚デザインが違うその回数券は、今はクリスマス仕様になっている。今日は赤いマフラーがリボンのように踊っていて、その両端には雪だるまが。二人で一本のマフラーをシェアしている。
マフラーの真ん中からちぎって、一方は店の、もう一方は彼の控えとなる。

ひんやりと冷たいタンブラーに、エスプレッソを注いでお湯で割る。

寒い冬には熱々のアメリカーノがよく合う。



【お題:愛を注いで】

12/12/2024, 11:43:29 AM

これってまさか以心伝心?

戸惑いながらチョコの包み紙を開けて、何も動じてないフリをしてパクッと一口。砂糖と植物油脂の約束された甘さがとろり。

ついさっきまで私が食べたいと思っていたメルティキス。私は何も言っていないのに。

「なんで」

一箱に数個しか入っていない高級品だけど、美味しくてつい手が伸びてしまう。私の机に箱を置く方が悪いのだ。

「うん?」
「何でわかったの? 私がこれを食べたいってこと」
「んふん」
「んふんって何、んふんて」

カナトも箱に手を入れてチョコを取り出す。

「分かりやすいからなあ、ミウは」
「私が?」
「まじちょろい」
「ちょろいとか言うなっ」

カナトはチョコを口に放った。

「んめ」
「ふふふ」

放課後の教室。私たち二人だけ。
それぞれ口を閉じて、メルティキスを味わう。今この瞬間に、彼と同じチョコを味わっている。その感覚が、なんだかちょっとくすぐったい。

カーテンに冬の西日が当たり、温かなオレンジ色に染まっている。


【お題:心と心】

12/12/2024, 1:57:32 AM

「大丈夫?」って尋ねた時、「何でもないよ」という答えが一番困る。

それって絶対何かある。何かあることを認知した上で「(君に伝えるようなことは)何もないよ」ってことだよね。

本当に何もないなら、まず「大丈夫?」と聞かれたことに対して驚いて「えっ何が?」ってなるはず。

雪虫が飛んでいく。私たちの間にある、張り詰めた空気をくすぐるように。

あなたは私に、話すことを拒否している。

話したところでどうにもならない、と諦めている。あなたは私を見限り、目を合わせず、虚空を眺める。

衝動的に叫びたい気持ちになる。その肩を揺さぶって問い詰めてやりたい気になる。

冷たく乾いた北風。その怒りは一瞬で冷えて、鈍色の虚しさだけが残る。

あなたの「何でもないよ」に対して、私は短く「そう」とだけ答える。

二人の歩調がずれていく。枯葉を踏む足音のリズムがちぐはぐになる。

【お題:何でもないフリ】

11/3/2024, 8:59:27 AM

書き留めておかなければ。眠りにつく前に。

枕元のメモ帳とペンをひっつかむ。スマホを懐中電灯モードにすると、まぶしさで一瞬目がくらんだ。

先ほど思い浮かんだアイデアを、半分寝ぼけた頭で書き殴る。別に作家ぶりたいわけではない。自分が天才だなんて思ってない、けれど思いついたものをこうして書いておかないと寝られないのだ。でないと、目を閉じたその暗闇の中でアイデアが無限に膨らみ続け寝るに寝られなくなる。だからメモ帳に書いて預けておく。

遠くで工事の音がする。国道の夜間工事が行われている。ダダダダ、ドドドド、硬いコンクリートに穴があいていく。自分の頭蓋骨も貫かれていくようだ。午前2時。意識と無意識の境界。生まれてこのかた暗闇で満たされていた己の頭の奥底には、何が眠っているのか。あるいはただの空洞か。

それを確かめるために私はペンを走らせる。ミミズの這うようなつたない文字で。




【お題:眠りにつく前に】

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