よくあるよね、恋愛漫画とかで。
一人が風邪を引いちゃって、もう一方が家に来て看病して、そこでイチャイチャしたせいで結局もう一人の方に風邪移しちゃうやつ。
風邪なめんなって。
なんで熱出てるかって、体が危険を感じてウイルスを追い出そうとしてるからであって、それを恋愛のトキメキにすり替えてもらっちゃ困る。
熱だぞ。出てんだぞ熱。辛いんだよ。一刻も早く治したいんだよ。本当に恋人のことを思うならイチャついてないで放っておくでしょうよ。引いてる方だってこんなもの移したくないし。
なんてことを前に言ったせいで、理解のある彼は全く見舞いに来ない。LINEもよこさない。
「お大事に。これ以降連絡は控えるから、しっかり休んで」
今朝このメッセージが来て、それきり。
気絶のような眠りを細切れに繰り返しながら、起きたら夕焼け小焼けのチャイムが流れていた。冬の弱々しい日差しが、閉め切ったカーテンを鈍く光らせる。38℃。ぜんぜん下がらない。
もうちょっと連絡くれないかな。
弱りきった心でそんなことを思ってしまい、そんな自分に嫌気がさす。彼は私の希望に沿ってくれた。なのに今さらやっぱり寂しい、連絡が欲しいだなんて、自分勝手にもほどがある。
学校はホームルームが始まる頃だ。彼はいまどんな顔で、誰と、何を話しているんだろう。
もし愛子と話していたら? 私が学校に戻った時、彼と愛子が仲良くなっていたら。悪い子じゃない。でも。
彼と愛子が手を繋いで帰り道を歩いている姿を想像して、急にぼろぼろ涙が出てきた。
弱りすぎだろ、私。あほか。
茶化してみようとするも涙が止まらない。連絡がないのは、もしかして私を気遣ってるからじゃなくて、愛子に心が傾いたから? だめだ。自分の妄想で自滅してどうする。
着信音。
はっとしてスマホを手に取ると、メッセージが一件。
『ごめん。やっぱお見舞いに行ってもいい?』
心のうちで花が咲いたようだった。
ふふふ、へへへ、と笑いながらスマホに頬擦りする私は、ハタから見たら変人だ。
早く風邪を治して彼に会いたい。
【お題:風邪】
12/16/2024, 11:31:49 PM