#18 残暑の中心で泡だらけのアルコールを
「春と秋どこ言ったん?」
夏終盤、のはずのコンビニ帰り。「まじで」と付け足して唸る
こいつの背中をアスファルトを蹴って追っている。
目の前で揺られてるコンビニ袋には適当な夜ご飯と缶ビールが透けて見える。そんなことも忘れたのかまたこいつは
大きく袋を揺らすんだけど気づいても何も言ってやんない。
その上こいつは「これが地球温暖化ってやつですか」
とかまた的外れなことを抜かしやがる。馬鹿な癖して頭良さげに憎まれ口を叩くこいつと世間のヤツらを並べてコケにするのがスキップでこいつの後を追うこの私ってわけなんだ。
最近のお偉いさんは皆、お馬鹿さんだ。お偉いさんだけじゃない。メディアを全部全部鵜呑みにするお前らもだ。
朝のニュースでもなんでも地球温暖化だCO2だって馬鹿の一つ覚えみたいに言って世間は頷いても節電はしない。
けど私はそんな文句を言いたい訳じゃない。正直ただ皆の知らないことを知ってるなんて言う優越感に浸ってるだけなんだ。
だってこの暑さは地球温暖化でもなんでもない、あるポンコツな魔女のたった一つの失敗なんだから。
そのあるポンコツな魔女が、知ったかぶりする世間を優越感で馬鹿にするなんていいご身分だと我ながら思うが生憎、戻す魔法も知らないんだからしょうがない。
夏が終わらない。
それは幸せな事だと思ってた。なのに結局、私たちには熱帯夜に溺れて文句を吐く現状しか残んなかった。
けどそんな文句を言ってくだらないことで笑えるのが意外と心地よかったりするんだって失敗したから気づけたよ。
とは言いつつも暑さの代償は大きい。
ハロウィンを取り戻す魔法をまた練習しないと。
#17
拝啓、敬愛なるサン・テグジュペリ様、並びに本好きな誰かへ
星の王子様で星空が綺麗なのはこの広い空には王子様の星が隠されててそこには小さな1輪のバラがあるからだって知った
けど、私はその薔薇に懐いたわけでもないから、まだ星空が綺麗には見えなかった、あなたが死んじゃうまでは。
私が初めて星の王子様を呼んだのはあの事故から
1ヶ月たったか経たないかぐらいだったかな
何度も泣いて泣いて空なんて上なんて全然見なかったのにさ
あなたが残したたった一冊の本でこんなに空をみるようになるなんて思わなかった。星の王子さまと違って隠してるのは星でも薔薇でもないからさ昼の空も朝焼けも綺麗に見えるよ。
綺麗に見えるのに、
こんなに滲んで見えるのはなんでだろうね。
♯16 愛を歌わないで
君は今や世界中に名を馳せるバンドマンになった。
だからあの時に戻りたいなんて思うのはきっと私だけなんだ。
君は1万5000人の武道館が好きだろうけど私は君と2人の狭いアパート好きでさ、心を震わすような歌声より下手くそで、突っかかりながら歌ったあの弾き語りが何より好きだったんだよ。
いくら関係性が変わらないからってさ距離が変わらないことは神様も保証してくれなかったよね。
ねぇ今、君から見える景色はどんななの?
やっぱり1万5000人の内の1人でしかなくなっちゃったの?
私はあの時のが好きだったけど、あの時より100倍楽しそうに笑う君がステージの上にいるからさ、何にも言えないよ。
けどやっぱり本当はまた下手くそなギターが聞きたいよ
#16 辞書をなくしたルサンチマン
今まで私が出会った物には全部名前があった。
チョコも傘も憎しみも悲しみも、
だから、こんな惨状を前にひたすら口を開けずにいる。
〝こんなはずじゃなかった
もっとこんな感じのはずで
あの子みたいになれたら 〟
って思っても体が動けなくて
何にも出来なくて、自分に抱いた嫌悪感とか劣等感はまた違う
よどんだ感情に濁されて1人で沈んでく。助けてくれよ
けど「助けて」って言ったらさ「どうしたの?」って話を聞いてくれんのが優しさなら、助けてなんて余計言えないよ
言葉に出来ない死にたさがまた首を絞めるんだね
いつになったら、あの子みたいに笑えるんだろうね
今日だってほら、くだらないことばっか言葉を紡いでる
大事なことはいつだって言葉に出来ないのにね
ずっとそんなままで結局何を求めてるの?
承認欲求なんて一時的だって早く気づけよ
書くのが好きで楽しくて始めたはずだったのにさ
いつから劣等感から逃げるための苦行になったの?
誰がしたんだよ。
#15. 堕落の端にいたとしても王子面を許しましょう
踏み外した地面にバランスを奪われて溺れかけたのは
何年くらい前のことだっけ、 やっとあれから10年は超えてくれたんじゃないかななんて考える私はもう高校生になった。
浴衣のまま川辺にしゃがんだ私の手には線香花火があって、
私の横には役目をなくした下駄だけが決まり悪そうに置いてある、この丸い石と下駄の相性があまりに悪いもんだから。
遠くで花火が上がる音が聞こえる。結局見上げたところで木に囲まれて見えないままなんだけど。ふと視線を下げて、あの時溺れた川を見る。あの時、あの時は、
線香花火の火玉が川底に沈んでく。川底に消えていく。
〝息が苦しくなって真夏の空が歪んで見えた”
歪んだ空がまた揺れて、目が痛くなって、
でもどうやって息したら良いかわからないからもがいたままであの時のこもって聴こえた小さな子供がはしゃぐ声が
私の人生で聞く最後の音なんじゃないか
なんて思った私もまだまだ小さな子供だった。
そんなこと考えてる間にも私の体は冷たい川底に引きづられて、微妙に水面に届かない私の身長だけを呪ってた。
真夏の音はもう聴こえなくて力が抜けて最中、
まだ夏になってスイカも食べてなかったのに、
みんなより一足早く私の夏って終わっちゃうんだ、
って思うとまた余計にもがけなくなって
1人スローモーションの狭間で浮べずにいた。
泡が一つ。また一つ。私を置いて浮かんでく。
きっとそんな時に泣いても紛れて流れてその川でまた誰が溺れて涙を流すだけなんだ。その涙にだって誰も気づかない。
なんて心まで水が浸食してたから強い力で引き上げられた時、
顔も知らないその人が王子様に思えた。
あんなに届かなかった水面を抜けて一気に肺に入った外の空気が逆に苦しくてなくほどむせて、白馬の王子様が隣にいるのに、上しか向けずにいた。だから、その人の顔なんて全然覚えてない。
そのはずなのに、これだけはわかる。
今、川の向こうでアルコールを静かに飲んでうなだれてる
ピアスの開いたその人があの時の王子様だったってことだけは
今は王子様には程遠いんだけどなんか、絶対にそんな気がする
ほら、その見開いてこっちを見た目が物語ってるんだよ
わたしは花火そっちのけでその男を追ってる。サンダルを引きずって歩くその人の影を目で追ってる。静かになった夜に響くいつかのままの水音。帰り道はこっちにしかない。知らないふりをしても私はめんどくさい奴だから答えてくれるまで帰さないだろう。
気まずい距離がだんだん縮まってく。
サンダルの向きが変わる前に。
「あの、昔、ここで小さな子供を助けませんでした?」
ここで笑うなよ。泣けちゃうじゃんか。