onion cryer 330

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#15. 堕落の端にいたとしても王子面を許しましょう


 踏み外した地面にバランスを奪われて溺れかけたのは
何年くらい前のことだっけ、 やっとあれから10年は超えてくれたんじゃないかななんて考える私はもう高校生になった。
浴衣のまま川辺にしゃがんだ私の手には線香花火があって、
私の横には役目をなくした下駄だけが決まり悪そうに置いてある、この丸い石と下駄の相性があまりに悪いもんだから。
遠くで花火が上がる音が聞こえる。結局見上げたところで木に囲まれて見えないままなんだけど。ふと視線を下げて、あの時溺れた川を見る。あの時、あの時は、
線香花火の火玉が川底に沈んでく。川底に消えていく。


 〝息が苦しくなって真夏の歪んだ空だけが見えた”
歪んだ空がまた揺れて、目が痛くなって、でもどうやって息をしたら良いかわからないからもがいたままで、あの時のこもって聴こえた小さな子供がはしゃぐ声が私の人生で聞く最後の音なんじゃないかなんて思った私もまだまだ小さな子供だった。
そんなこと考えてる間にも私の体は冷たい川底に引きづられて、微妙に水面に届かない私の身長だけを呪ってた。
真夏の音はもう聴こえなくて力が抜けて最中まだ夏になってスイカも食べてなかったのに、みんなより一足早く私の夏って終わっちゃうんだって、思うとまた余計にもがけなくなって1人スローモーションの狭間で浮べずにいた。
泡が一つ。また一つ。私を置いて浮かんでく。
きっとそんな時に泣いても紛れて流れてその川でまた誰が溺れて涙を流すだけなんだ。その涙にだって誰も気づかない。
なんて心まで水が浸食してたから強い力で引き上げられた時、
顔も知らないその人が王子様に思えた。
あんなに届かなかった水面を抜けて一気に肺に入った外の空気が逆に苦しくてなくほどむせて、白馬の王子様が隣にいるのに、上しか向けずにいた。だから、その人の顔なんて全然覚えてない。


そのはずなのに、これだけはわかる。
今、川の向こうでアルコールを静かに飲んでうなだれてる
ピアスの開いたその人があの時の王子様だったってことだけは
今は王子様には程遠いんだけどなんか、絶対にそんな気がする
ほら、その見開いてこっちを見た目が物語ってるんだよ
わたしは花火そっちのけでその男を追ってる。サンダルを引きずって歩くその人の影を目で追ってる。静かになった夜に響くいつかのままの水音。帰り道はこっちにしかない。知らないふりをしても私はめんどくさい奴だから答えてくれるまで帰さないだろう。
気まずい距離がだんだん縮まってく。
サンダルの向きが変わる前に。

「あの、昔、ここで小さな子供を助けませんでした?」

ここで笑うなよ。泣けちゃうじゃんか。

8/12/2025, 1:17:31 PM