#15. 堕落の端にいたとしても王子面を許しましょう
踏み外した地面にバランスを奪われて溺れかけたのは
何年くらい前のことだっけ、 やっとあれから10年は超えてくれたんじゃないかななんて考える私はもう高校生になった。
浴衣のまま川辺にしゃがんだ私の手には線香花火があって、
私の横には役目をなくした下駄だけが決まり悪そうに置いてある、この丸い石と下駄の相性があまりに悪いもんだから。
遠くで花火が上がる音が聞こえる。結局見上げたところで木に囲まれて見えないままなんだけど。ふと視線を下げて、あの時溺れた川を見る。あの時、あの時は、
線香花火の火玉が川底に沈んでく。川底に消えていく。
〝息が苦しくなって真夏の歪んだ空だけが見えた”
歪んだ空がまた揺れて、目が痛くなって、でもどうやって息をしたら良いかわからないからもがいたままで、あの時のこもって聴こえた小さな子供がはしゃぐ声が私の人生で聞く最後の音なんじゃないかなんて思った私もまだまだ小さな子供だった。
そんなこと考えてる間にも私の体は冷たい川底に引きづられて、微妙に水面に届かない私の身長だけを呪ってた。
真夏の音はもう聴こえなくて力が抜けて最中まだ夏になってスイカも食べてなかったのに、みんなより一足早く私の夏って終わっちゃうんだって、思うとまた余計にもがけなくなって1人スローモーションの狭間で浮べずにいた。
泡が一つ。また一つ。私を置いて浮かんでく。
きっとそんな時に泣いても紛れて流れてその川でまた誰が溺れて涙を流すだけなんだ。その涙にだって誰も気づかない。
なんて心まで水が浸食してたから強い力で引き上げられた時、
顔も知らないその人が王子様に思えた。
あんなに届かなかった水面を抜けて一気に肺に入った外の空気が逆に苦しくてなくほどむせて、白馬の王子様が隣にいるのに、上しか向けずにいた。だから、その人の顔なんて全然覚えてない。
そのはずなのに、これだけはわかる。
今、川の向こうでアルコールを静かに飲んでうなだれてる
ピアスの開いたその人があの時の王子様だったってことだけは
今は王子様には程遠いんだけどなんか、絶対にそんな気がする
ほら、その見開いてこっちを見た目が物語ってるんだよ
わたしは花火そっちのけでその男を追ってる。サンダルを引きずって歩くその人の影を目で追ってる。静かになった夜に響くいつかのままの水音。帰り道はこっちにしかない。知らないふりをしても私はめんどくさい奴だから答えてくれるまで帰さないだろう。
気まずい距離がだんだん縮まってく。
サンダルの向きが変わる前に。
「あの、昔、ここで小さな子供を助けませんでした?」
ここで笑うなよ。泣けちゃうじゃんか。
#14 例えばそれが抹茶だとしても
溢れたアイスクリームには虫が集ってる。
あの日崩れた愛に似てる、
まだ純愛だった頃の私たちには誰も見向きもしなかったくせに
だんだん壊れていって普通を保てなくなった途端に寄ってたかって指差して笑った。一部の奴らは優しさに酔いしれて味方面の手を緩めない。虫を見るような目で見られてたのはこっちなのにさ、虫みたいに気持ち悪く群がったのはあんたらだったよ
けどここにある甘さだけは崩れても変わらないんだね
ムカつくわ
♯13 初夏までは面白味もない喜劇のままで
まだ蝉がうるさい夏の終わり。
このアパートの一室で私は1人だった。
こんな悲劇がやさしさなんて私は絶対に信じない
あいつは私の幸せを願ってた。
あんなに適当な態度だったのに?
2人で馬鹿にした愛って結局ここにあったの?
そういえば話を聞いてないようで
よく見てくれてたよね、めんどくさいみたいな顔してさ、
アルコールしか信じてませんって嘘じゃんか
あいつは私の幸せを願ってた?そんなの不可能だよ
あんたの幸せをこっちは願ってんだから
私を幸せにしたあんたがいくら自己満足で幸せでも
そんな幸せを私は認めない。
あ、そういえば自己満で人を幸せにできるような奴でもなかったな、じゃあこれはいっそ愛なの?
それでも、やさしさなんて愛の証明の片隅にも置けない。
だから自己満足ってことにしてよ。
そしたらあいつの本当の幸せを今度は願えるからさ
そのためなら私は不幸にだってなるよ、
だからこんなのが本当のやさしさだなんて信じない。
信じたくなかったんだよ。
これは、神様となんの変哲もない少年の話です。
昔、ある国のお城に不思議な目の色をしたお王子様がいました
肌は白く透き通っていて長いまつ毛に隠された目の色は神秘的でそんな王子様のことを国民は神様の愛し子だと言い、当時信仰されていた教えと並列して王子様を崇拝の対象としました。
しかし、王子様は日光に弱く皆の前に姿を現すことはもちろん、外に出ることも出来ず、暗いお城の一室で一人、
豪華絢爛なベットに蹲るような生活を送っていました。
一方的に教養と賞賛だけが注がれる王様は次第に部屋に戻るなり涙を流し朝には涙の跡を隠す、そんな習慣に溺れていきました。こんな窮屈な生活であれば無理もありません。彼は寝る前にぼやけた目でカーテンがかかった窓に目を向けます。もうずっと隠されたいままのステンドガラスに頬を当てまた涙を流して夜が明けないでと願いベットに戻って悪夢にうなされる、それでも翌朝には彼は笑顔でお城を訪れた人々に接しました。なんせ、彼はその国の王子様なのですから。訪れた国民はまた呪いの言葉を口にします。「”神様の愛し子”でもあろうお方とお会いできて光栄です。」と、王様は聞くたび頭の奥を刺す痛みに耐え笑います。笑います。笑えてます。
そんな苦しい日々の狭間でスクライブ、いわゆる伝令員からの知らせで30年ぶりに「曇り」という太陽が隠される日が1週間後に訪れることを知りました。30年ぶり、それは彼が生まれる13年前のことです。えぇ彼が生まれてから初めての曇りです
彼は生まれて初めて外に出れると思い廊下を早歩きで歩きお母様に聞きにいきましたが、「紫外線」というものの危険性をこんこんと説かれ部屋に戻されました。
頬に当てたスタンドガラスは夏でさえ冷たく心を鎮めてくれます。彼はふと歪んで見える星空に手を合わせて目を閉じました。もし本当に私が神様の愛し子であるならば外に出れる魔法をかけてください、と。お願いした後に魔法は変だったと考えましたが、言い換える間もなく彼は神様にこの1週間、善行を積む約束をしその日もベットに沈みました。
あとは1週間王室の人間でいるだけです。
あれから丁度7日、大量の雲がこの国を訪れた今日は、夜が完全に明けるよりもずっと前から風がステンドガラスを割れるほど叩きつけていました。こんなにも怖いものなのかと王子様は少し怖気付きましたが、王子様は孤独よりも怖いものはないと知っていました。さて、王子様は本当の愛し子なのかと好奇の目を向けるものはどこにもいません。王子様と神様だけの約束です。正直のところ王子様の心の3分の1は疑いで支配されていました。だからこそステンドガラスが勢いよく割れた時王様は
大きく息を飲みました。部屋のドアには昨夜鍵をかけました。
更には大きなグランドピアノでドアを塞ぎました。
どこにも王子様を邪魔するものはいません。
王子様は裸足のまま屋根を滑り落ちました。
生まれて初めてにしては強すぎる外の風は王子様を
純粋無垢な少年へと変える魔法をかけました。
月が見えなく風の強い夜、神様は彼に愛の証明をしました。
彼は神様に愛されていました。
彼はまた神様を愛し始めました。
翌朝、消えた王子様の話は国中に知れ渡りましたが、
彼の行方を知っているのもきっとまた神様だけなのでしょう。
12. 愛に入り浸る貪欲姫
私は賞賛の声が絶えない人気者になった。
確か半年前ベットについてからだったかな、
幸せに囲まれて愛に包まれて、そこから抜け出そうなんていう物好きはなかなかいないだろう。
ただ、さっき会った根暗な不細工だけが
「全部夢だよ、起きてよ」なんて言って私を皮肉ってる。
だから誰からも好かれるような笑顔のまま教えてあげた。
「どこも夢じゃないよ」って。
泣きそうなあの子はもっと不細工な顔して必死に
足元にしがみついてくる。汚いから蹴飛ばした。
「夢じゃないんだよ?あんたが醜いのも」
跳ね返って刺さった何かに気づかないふりして
空想の愛に浸っている。
歪んだ顔をしたあの子の額には半年前の私と同じ傷跡がある
首元には同じようなほくろがある。
けど今の私にはどっちもない。じゃあの子は、
けどこれは夢じゃないからどっちでもいい