これは、神様となんの変哲もない少年の話です。
昔、ある国のお城に不思議な目の色をしたお王子様がいました
肌は白く透き通っていて長いまつ毛に隠された目の色は神秘的でそんな王子様のことを国民は神様の愛し子だと言い、当時信仰されていた教えと並列して王子様を崇拝の対象としました。
しかし、王子様は日光に弱く皆の前に姿を現すことはもちろん、外に出ることも出来ず、暗いお城の一室で一人、
豪華絢爛なベットに蹲るような生活を送っていました。
一方的に教養と賞賛だけが注がれる王様は次第に部屋に戻るなり涙を流し朝には涙の跡を隠す、そんな習慣に溺れていきました。こんな窮屈な生活であれば無理もありません。彼は寝る前にぼやけた目でカーテンがかかった窓に目を向けます。もうずっと隠されたいままのステンドガラスに頬を当てまた涙を流して夜が明けないでと願いベットに戻って悪夢にうなされる、それでも翌朝には彼は笑顔でお城を訪れた人々に接しました。なんせ、彼はその国の王子様なのですから。訪れた国民はまた呪いの言葉を口にします。「”神様の愛し子”でもあろうお方とお会いできて光栄です。」と、王様は聞くたび頭の奥を刺す痛みに耐え笑います。笑います。笑えてます。
そんな苦しい日々の狭間でスクライブ、いわゆる伝令員からの知らせで30年ぶりに「曇り」という太陽が隠される日が1週間後に訪れることを知りました。30年ぶり、それは彼が生まれる13年前のことです。えぇ彼が生まれてから初めての曇りです
彼は生まれて初めて外に出れると思い廊下を早歩きで歩きお母様に聞きにいきましたが、「紫外線」というものの危険性をこんこんと説かれ部屋に戻されました。
頬に当てたスタンドガラスは夏でさえ冷たく心を鎮めてくれます。彼はふと歪んで見える星空に手を合わせて目を閉じました。もし本当に私が神様の愛し子であるならば外に出れる魔法をかけてください、と。お願いした後に魔法は変だったと考えましたが、言い換える間もなく彼は神様にこの1週間、善行を積む約束をしその日もベットに沈みました。
あとは1週間王室の人間でいるだけです。
あれから丁度7日、大量の雲がこの国を訪れた今日は、夜が完全に明けるよりもずっと前から風がステンドガラスを割れるほど叩きつけていました。こんなにも怖いものなのかと王子様は少し怖気付きましたが、王子様は孤独よりも怖いものはないと知っていました。さて、王子様は本当の愛し子なのかと好奇の目を向けるものはどこにもいません。王子様と神様だけの約束です。正直のところ王子様の心の3分の1は疑いで支配されていました。だからこそステンドガラスが勢いよく割れた時王様は
大きく息を飲みました。部屋のドアには昨夜鍵をかけました。
更には大きなグランドピアノでドアを塞ぎました。
どこにも王子様を邪魔するものはいません。
王子様は裸足のまま屋根を滑り落ちました。
生まれて初めてにしては強すぎる外の風は王子様を
純粋無垢な少年へと変える魔法をかけました。
月が見えなく風の強い夜、神様は彼に愛の証明をしました。
彼は神様に愛されていました。
彼はまた神様を愛し始めました。
翌朝、消えた王子様の話は国中に知れ渡りましたが、
彼の行方を知っているのもきっとまた神様だけなのでしょう。
8/9/2025, 2:56:44 PM