昔、この国に英雄と呼ばれた人間がいた。
しかし、どの文献にも英雄自身についての記録がなかった。あるのはただ、英雄がいたということと、英雄に救われた街や村々に記録があるのみ。英雄の名も、姿も分からない。
そう思われていた。
英雄の名前が分かったのは、偶然だったのかもしれない。
この国の王女殿下が隣国の王族と交流中、星座の話になった。その時、こんな話題が出た。
「昔に活躍した、ある国の英雄が星座になった」
王女殿下は、ハッとしたらしい。それは、この国の英雄なのではないかと。そう思った王女殿下は、星座の名前を聞き出した。
⸺フェルメダ座。
王女殿下は過去の文献や記録などを調べ、分かったことがあった。英雄が活躍した後、フェルメダという名が多く名前として使われていたこと。そして今でも村々の多くで定番の名前であることを。
*
「オ…オレの名前、そんなソーダイだったのか!?」
「……いや?ただそんな話があったら面白いだろうと思ってな」
「つまり作り話かよ!?おどろいてソンした…オレもう帰っから、バーさんも暗くなる前に帰れよ?」
「おぉ。またのフェルメダ。明日もまた占ってやるか?」
「いらねーよ!バーさんの占いってあんま当たんねーし。じゃあなー!」
「………作り話でも”未来の”なんだけどの」
【いつか彼は英雄に…なるかもしれない】
踊りませんか?
このステキな景色を背景に、私と一緒に踊りましょう?
「………」
えぇ、えぇ。そうでしょうそうでしょう!
貴方みたいな少年が、”踊る”なんて難しいですよね!
ふふっ。私の役目を奪うようなことなんて考えずに、大人しく元いた場所に戻りなさいな!
「いや……踊るさ」
⸺!なるほどなぁるほど!貴方の復讐心は、貴方の非力さは、偉大なるご主人様に踊らされる屈辱より大きいのですね!私、貴方のことを過小評価し過ぎていたみたいです!
あぁ!私、貴方に名前を伝えておりませんでした!
私は”涙目ピエロ”と呼ばれておりますの…貴方に名前をつけるなら、一体何がいいんでしょうね?
「…”泥人形”、でいいだろ」
まぁ、ステキなお名前ですね!えぇ、えぇ。分かりましたわ、泥人形。これから私、貴方のことは泥人形と呼びますわ!
「わかった。一応、よろしく。ピエロ」
【ここから始まる物語(続かない、かもしれなかった)】
『ねぇ…お兄さま。私、運命の人に巡り会いたいの』
そう言って、妹はこの世を去った。この言葉が、彼女の最後の言葉だったのだ。なのに俺は、妹の言葉を否定した。否定で返してしまったのだ。
俺は、否定したことを……妹の言葉を肯定してあげなかったことを、後悔している。だけど、後悔したところで妹は戻ってこない。戻ってこないのだ。
⸺しかし・・・・・・。
「貴方、どうしたの?」
政略で婚約した十も下の女性に、妹を幻視するのは何故だろうか……?
*
「”前世”から会っていたなんて、本当に運命だね。お兄さま…♡」
【巡り…会った…?】
響き渡る絶叫と一切の容赦なく燃やし尽くす炎。
只人たちは逃げ惑い、倒れた羊は炎の狼に喰われていく。
「あっははっは♪しね!しねっ!しねぇっ!愚かに死んじゃえ!!!」
あぁ…神様。この世に救いは無いのでしょう?
神の救いは既に行われた後なのだから。
「⸺……ぅ”…ぉ”」
「あれ?まだ生きてたの?しぶといな〜、君。こんなんでも、英雄っていうゴキブリだった訳か…ゴミ虫だったけど♪」
「……お…れを………従……者に、おねが…いしま………す」
「えぇー…生き延びられると思ってんの?あー、やだやだ。これだからボク、人間ってキライなんだよねー」
なんということでしょう。神々に認められた英雄が、魔族に与する言葉を発するなんて……信じられません。
私達の光であり、救いである英雄様は、地に堕ちてしまいました。
⸺でももし…私の声を、神々のうち一柱でも聴いていらっしゃるのならどうか…英雄という奇跡を。
逃げ惑う人々が救われる奇跡をもう一度だけ……⸺お願いします。
【救うも捨てるも神の自由】
黄昏時にしか現れぬ境界よ
混沌渦巻き魑魅魍魎が蔓延る異界を開き
異界の住民を、我が身を通し現界せよ
〖憑化〗悪魔憑き
【詠唱っぽいのを書きたかっただけ】