『ねぇ…お兄さま。私、運命の人に巡り会いたいの』
そう言って、妹はこの世を去った。この言葉が、彼女の最後の言葉だったのだ。なのに俺は、妹の言葉を否定した。否定で返してしまったのだ。
俺は、否定したことを……妹の言葉を肯定してあげなかったことを、後悔している。だけど、後悔したところで妹は戻ってこない。戻ってこないのだ。
⸺しかし・・・・・・。
「貴方、どうしたの?」
政略で婚約した十も下の女性に、妹を幻視するのは何故だろうか……?
*
「”前世”から会っていたなんて、本当に運命だね。お兄さま…♡」
【巡り…会った…?】
響き渡る絶叫と一切の容赦なく燃やし尽くす炎。
只人たちは逃げ惑い、倒れた羊は炎の狼に喰われていく。
「あっははっは♪しね!しねっ!しねぇっ!愚かに死んじゃえ!!!」
あぁ…神様。この世に救いは無いのでしょう?
神の救いは既に行われた後なのだから。
「⸺……ぅ”…ぉ”」
「あれ?まだ生きてたの?しぶといな〜、君。こんなんでも、英雄っていうゴキブリだった訳か…ゴミ虫だったけど♪」
「……お…れを………従……者に、おねが…いしま………す」
「えぇー…生き延びられると思ってんの?あー、やだやだ。これだからボク、人間ってキライなんだよねー」
なんということでしょう。神々に認められた英雄が、魔族に与する言葉を発するなんて……信じられません。
私達の光であり、救いである英雄様は、地に堕ちてしまいました。
⸺でももし…私の声を、神々のうち一柱でも聴いていらっしゃるのならどうか…英雄という奇跡を。
逃げ惑う人々が救われる奇跡をもう一度だけ……⸺お願いします。
【救うも捨てるも神の自由】
黄昏時にしか現れぬ境界よ
混沌渦巻き魑魅魍魎が蔓延る異界を開き
異界の住民を、我が身を通し現界せよ
〖憑化〗悪魔憑き
【詠唱っぽいのを書きたかっただけ】
今日も、私の薬は来ない。
「もう二度と会えない」なんて思ったら、約束を破ることになる。だから、約束したからって気持ちで押しつぶす。
「ご飯、出来たよ。扉の横に置いておくから、冷める前に食べちゃいなよ」
「………ありがとう、ございます」
人の気配が去った後にお礼を言うなんて、私って……いい、や。ご飯、食べよう。
⸺やっぱり私…和食、好き……だな。美味しいなぁ…お惣菜みたいだけど。お惣菜でも、別にいいんだけど……ちょっぴり冷たいところもあるし、もう少し長めに温めてほしい、かな。
「ご馳走様………いい加減、外に出てみようかな」
ずっと部屋の中にいたら、いつかは誤魔化しが効かなくなると思うし…気分転換にはなる、かな……?
勇気をだして、部屋の外に出てみる。思ったより、簡単に部屋から出られた。そっか…外って、行くのは簡単だったね。台所で食器類を洗うという目標を立て、目標を完了するため、食べ終えた食器類を持って台所へ向かう。片付けなんて、いつぶりだったかな…。
きっと明日も、私の薬は来ない。だけど仕方ないのだ。あんな、夢でした約束が守られる保証なんて、無いんだから。新しい友達を作るくらいなら、彼も許してくれる…かな?
【新しい友達が出来るまで、あとXX日】
「もう、見れないんだな。あの頃の景色は」
かつては沢山の子供が生活していた孤児院の一室。この孤児院に住んでいた彼らは、歴史に残るようなことを成し得た子らもいる。しかしもう殆どの子供たちが寿命を迎え、次の生を始めているのかもしれない。
⸺いくら自分が長命種とはいえ、150年以上も未練たらたらで孤児院を続けていたのは、友達の一途さを笑えないな…割とガチで。
「おいお前、何そこでぼーっとしてんだ!」
指導役の冒険者に叱られ、仕方なく子供部屋を離れ、他の冒険者たちの元へ向かう。今の俺は新人冒険者。先輩冒険者の足を引っ張らずに一人前だと認めてもらうことが、今の目標だ。
いつまでも過去の声を懐かしんでるだけじゃ、ある友達に指差して笑えないからな。
誰一人いなくなった孤児院の一室は静寂に包まれる。
だがしかし、聴けるものが聞くと……子供たちの楽しげな笑い声に包まれるのだと、近隣の村々で噂されている。
【決して朽ちない、不滅の孤児院】