些細なことでも
お題が一周まわってきた。
ささいなことか?私には重大な問題だ。このサイトはもうやめようか…とも考えてしまう。
最初はバグか?と、こころの灯火のお題で思ったが…今日違うと確信した。
運営側にとっては、些細なことでも、使わせて頂いている側の気持ちも考えて頂きたいな、と率直に思う。
何より、書くというモチベーションが、ダダ下がりだ。
どんなお題が来るのだろう…とワクワクしていた自分が、一人取り残された気分だ。
どうか、使い回しをしないでください。
このサイトを楽しんでいた一人として。
些細なことかもしれませんが…。
不完全な僕
名のしれた大学を卒業した。地元では優等生で通っていた僕。
東京にある大手の企業に就職も決まった。
家族も友人も喜んでくれたけれど…。
これで良いのか?と、いつも漠然とした問いかけが自分を襲った。
順風満帆に親の勧めるがままの進路を生きてきた自分が、全く価値のない人間にも思えた。
敢えて茨の道を進みたくなる衝動が抑えられず、新人歓迎会の翌日、今まさに辞表を書いている。
手持ちのお金は、今月分の家賃と親戚やら親から貰った就職祝いのお金。
ここより狭く綺麗ではないが、近くに安いアパートも見つけた。
僕は聖人君子でもないから、めちゃくちゃな夜も経験したい。
ただ、何ものかにはなりたかった。根拠のない自信だけはあるのが笑ってしまう。
これから、家族も友人もなにもかも失うかも知れない。世間は馬鹿な奴だと笑うだろう。
不完全な僕は、それでも生きていけると強く思った。
今夜は、ライブハウスで朝まで音楽に浸りたい。
PUNKが聴きたいな。ヘヴィメタルも…。
翌日は、古本屋で読みたかった古典文学を大人買いしよう。
満喫で漫画の一気読みもしたい。
バイト先もみつけなきゃ。
何故だか顔がニヤけてくる。
親の描くエリート路線に乗っかる人生を捨てた。
完全でない自分を愛していこうと思った。
心の赴くままに。
足掻きながら生きていこう。
何者かになる為に…。
言葉はいらない、ただ・・・
渾身の一枚を描き上げた。
指先も腕も、身体中が痛かった。もう1ヶ月まともに眠っていない。
君の寝姿が余りにも美しくて、僕は感動しながら今日までこの絵に集中した。
誰に褒めて貰いたい訳でもない。
ただ、ただ描きたくて仕方なかった。
こんな気持ちになったのは、美大の受験の最中に初めて裸婦を描いたとき以来だ。
あのときは、デッサンだった。
モデルの女性の息を呑むほどの、均衡のとれたスタイルと独特なアンニュイさに惹かれた。
私は、女性の身体の線がとても好きなことに今更ながら気付かされた。
そして、描き上げたこの絵を、君と一緒に観たい。
言葉はいらない、ただ・・・君と一緒に観たいだけだ。
油絵の具が染み込んだ手でスマホを握った。
もう存在しない君のアドレスを開いていた。
涙が頬を伝った。
突然の君の訪問
突然の君の訪問。嬉しいけれど、部屋が片付いてないよ…。
グラビアアイドルの表紙の雑誌が床に…。隠すの忘れてた。リビングのローテブルの上の食べかけのカップラーメンやら缶ビールの空き缶やらペットボトルをざーっと片付けるので精一杯。
こんな無精な僕を君は嫌うかな?
かろうじて綺麗なスペースの最近イケアのセールで買ったソファに腰掛けて貰ったけど…。
君のアーモンドアイの大きな瞳で、そんなに興味津々に部屋中を見られると、身体検査でもされてる気分だよ。
あぁ…心臓に悪い。
君は本棚に手を伸ばして、この写真集見て良い?て聞いた。
白川義員さんの「天地創造」。バイト代をコツコツ貯めて買った大切なものだったから、君が真っ先にそれを選んでくれたのが嬉しかった。
「すごく幻想的…。」
写真を撮ることしか出来ない僕。他は何一つ上手くこなせない。
君にだってこの気持ちが届いているかさえ疑問だ。
「今度、君をカメラで撮りたい。」
勇気を振り絞って告白したら、君はにっこり頷いた。
君の突然の訪問が、僕を天にも昇らせた。
「今日は来てくれてありがとう。」
素直に君にお礼を言った。
窓の外に月が輝いていた。
雨に佇む
女性は残酷だ。もうこの人はムリと思ったら、二度とムリなのだ。
昨日長い春になりそうな位、ダラダラと結局お付き合いしてしまった彼を振った。
結婚するでもなく、ただ流されていく時間と彼の決断力のなさに嫌気がさした。
私も、今年で33になる。世間では晩婚も流行りの一つかも知れないが…。
そんなのどうでも良かった。自分の心に正直になった結果、お別れする道を選んだ。
朝から雨が降り続いていた。ちょうど土曜日の休みだったので傘をさして駅前の馴染みの喫茶店でナポリタンとカフェラテを飲んで、一息ついてからお会計を済ませ外に出た。
通りの真正面に傘もささずに、雨に佇む彼がいた。
これ見よがしにずぶ濡れになって、悲劇のヒロインよろしく捨てられた犬の様な目をしてこちらを見た。
私の気持ちは1ミリも動かなかった。
寧ろ嫌悪感さえ抱いた。
最後の優しさなのか何なのか、傘だけ彼に差し出した。
「傘は返さなくていいから…。」
彼への最後の言葉だった。
私は近くのコンビニでビニール傘を買って、何とも言えない気持ちのまま家路についた。
私が契約者のアパートの玄関に、紺色の無地の傘が立てかけてあった。
燃やせないゴミの日は何曜日だったかな…。
ふとそんなことを考えて玄関のドアを開けた。
雨はもうやんでいた。