言葉はいらない、ただ・・・
渾身の一枚を描き上げた。
指先も腕も、身体中が痛かった。もう1ヶ月まともに眠っていない。
君の寝姿が余りにも美しくて、僕は感動しながら今日までこの絵に集中した。
誰に褒めて貰いたい訳でもない。
ただ、ただ描きたくて仕方なかった。
こんな気持ちになったのは、美大の受験の最中に初めて裸婦を描いたとき以来だ。
あのときは、デッサンだった。
モデルの女性の息を呑むほどの、均衡のとれたスタイルと独特なアンニュイさに惹かれた。
私は、女性の身体の線がとても好きなことに今更ながら気付かされた。
そして、描き上げたこの絵を、君と一緒に観たい。
言葉はいらない、ただ・・・君と一緒に観たいだけだ。
油絵の具が染み込んだ手でスマホを握った。
もう存在しない君のアドレスを開いていた。
涙が頬を伝った。
8/29/2024, 12:26:11 PM