※BL
とある世界のとある時代、魔学の発展により文明は進歩した───────
しかし、未だその恩恵に預かれない国や地域もある。
そこで求められるのは利便性でも豊かさでもなく、ただ明日を生き抜く力のみ。
これは法も秩序もない世界で「戦う」彼、彼女らの物語。
【UNDER_TAKER -いつかの海原-】
「アキュラはさ、海って見たことある」
「海?」
互いに任務帰りの真夜中、君が突然に発した。
2人とも早めに切り上げられたので、まだ日が昇る気配は無い。
いそいそと月明かりだけを頼りに寝支度をする。
「海ねぇ、勿論ないよ」
「そうなのか」
「りーくんどうしたの?急に」
先にベッドへと入っていた彼の隣に潜り込む。
「ん……今日の対象がさ」
「うん」
「最後に海を見たかった、って言ったんだよ」
「へぇ~、りーくんに仕事が回ってくるならさぞや名のある海軍とかだったのかな」
りーくんことリヒトくんは、テイカーの中でも上位の番号持ち、そして特殊能力持ちだ。
当然回ってくる仕事は高難度なものとなる。
「正解、元帥も務めたことがあるらしい」
「大物すぎるね!?」
「全盛期とは戦いたくないと思ったよ」
【編集中】
※グロ
【不協和音】
がたがたがしゃがしゃがたがたがた
憎悪と虚勢と恐怖を打ち消す為の雑音。
かたん、きぃん。【音】ひゅっどすんっ
弾けるファンファーレ。
ぎちぎちぎゅりっ、【音】ごり、【音】ごつんっ
聞くに絶えない罵詈雑言。
ガタンッ!【つんざく音】ぶちっびちゃびちゃ
ガタガタ【音】ガタ【音】ガタガシャガ【音】シャガシャガシャ【音】
ごつんっ
意味なさぬただの大音量。
かたん、しゅぼっ、【甲高い音】ガタガタガタ【音】ガじゅ【音】うっガタン!ガシャ【音】ガシャガシャガシャ【音】じゅう【音】しゅうう【音】うガタガタ【音】ガタ【音】ガ【音】タじゅう【かすれた音】うううガタガタ【音】ガタガタじゅっ!【音?】ガタンッ
ぴちゃん、ぴちゃん
蚊の鳴くような音。
ぶつぶつぶつお経?ぶつぶつぶつぶつぶつばちんっ、ガシャッ
静寂。
こつ、ガタッ、とすん
どくっどくっどくどっどっどっどっどっどっどっ
かしゃかしゃかしゃかしゃかしゃかしゃかしゃ
どっどっどっどっどっどっどっどっどっどっ
かしゃかしゃかしゃかしゃかしゃかしゃかしゃ
もっと、もっと君の奏でるこの音楽を聞かせて。
窓から見える銀世界。
その中にひときわ鮮やかに咲いたのは、ひとつの麦わら帽子。
少し歪な雪だるまの上に被せてあるそれは、悲しいほどに眩しく映った。
「これで良かったのかな、なーちゃん」
ぺしょりとこたつに突っ伏しながら独り言ちる。
私一人だけの家にはやけに響いて、いっそ窓を開けて雪に音を吸い取ってもらおうかと思った。
気付くと麦わら帽子に払ったばかりの雪がまた積もり始めている。
「なーちゃんはそのままにしといてって、言ってたけど……」
たまらずコタツを抜け出した時、プルルルルと無機質な音が家に響いた。
タイミングが良かったのか悪かったのか。
「……もしもし、伊藤です」
「あら~沙苗ちゃん!?帰ってきてたのぉ!」
「恵美おばさん、お世話になっております。あいにく家族は今出かけ」
「ね!最近どうなの!ちゃんと食べてる?仕事は順調?あ、彼氏はどうなの!」
僕は、今日ついに任務を終えます。
これまでたくさんの駅を、休むことなく通過してきました。
それは決して美しいだけでも、快適な訳でもない道でした。
それでも、この任務を責任を持って終えられることが何より誇らしいと。
そう思えるほどに素敵な旅でした。
さあ、最後のアナウンスです。
「───間もなく終点、「 」、「 」です。
折り返しはございませんので、お忘れ物なきようお願い致します。
快適な旅だったでしょうか。素敵な旅だったでしょうか」
僕は、《お客様》をきちんと運びきれたでしょうか。
残念ながらそれを確認する術はありません。
それでも、だからこそ。
もう聞こえないあなたに精一杯のアナウンスを届けるのです。
「どうか降車の際は、笑顔でいられますようお祈り致しております」
景色が白み、そしてゆっくりと閉じていきます。
手にするのは初めて、そして最後に握るブレーキです。
ゆっくり、ゆっくりと。
かくして静かに振動は止まりました。
もう、いつも鳴り響いていた規則的な音はしません。
僕はそれを確認すると、一際大きく息を吸い込みました。
「ご乗車ありがとうございました。終点、「 」、「 」です。お忘れ物はございませんでしょうか ────────」
上手くいかなくたっていい。
自分が許せるなら、ね。