大狗 福徠

Open App
8/24/2025, 11:25:48 AM

見知らぬ街

見知らぬ景色。
ここは私の知らない場所。
知らない場所は未知で満ち満ちているわけで、
ここは私にとって異世界だった。
ここに来るまで、留まるまで何があったわけでもなく、
ただここから出る気力がないのであろう。
足りない頭で孤独を啄み続けている。
孤独はいつか孤毒となる。
体を蝕むそれらを無視するわけには行かないというのに、
体も頭もいうことを聞きはしない。
これでは屍に変わりないだろう、と嘆き続けている。
生き返りたいのに、死ぬのが怖いのに、
それ以上に知らないを知ることが恐ろしい。
知ったことで、知らない自分が殺されるのが怖い。
毎秒毎秒、知識が、知見が覆されていく世界。
変わってしまった帰り道。
切り倒された、秘密基地のあった森。
なくなってしまった大好きな遊具。
みんなみんな変わってしまって、
ここはもう見知らぬ街になってしまった。
見知らぬ街を知ることが、見ることができなくて。
まだみんなと遊んでいたくて。
一緒に給食を食べてたくて。
学校に行っていたくて。
休日には買い物とか行きたくて。
けれどここはもう知らない場所だから、
見知らぬ街だから、
啄んだ孤独に啄み返されて消えてなくなるしかないんだ。

8/23/2025, 4:39:37 PM

遠雷
輪郭までもがとろけてしまいそうな、長い長い雨の中。
ざあざあ振りの外には目もくれない貴方がいる。
その目はいつだって虚ろで、真剣で。
相反する感情を発露させたその瞳が私は大好きだった。
その目は、貴方の象徴であり、まさしく私の恋の象徴だった。
筆を取る。
絵の具を溶かす。
キャンバスに色を付けていく。
ひとつひとつの動作が洗練されていて、
美しいなんてそんなものじゃないくらいだった。
遠くで雷が鳴っている。
貴方はわざわざこんな雨だらけの街に越してきて、
雨ばっかりを描いていた。
私の恋の象徴は、貴方の愛の象徴だった。
貴方は、雨を愛している。
湿気た風を、暗い空を、重い空気を。
叶わない恋を、お互い背負い続けている。
私も貴方も、この気持ちを世界に打ち明けずに死んでいく。
遠く遠くで雷が鳴っている。
私達のように。
出会うことはないと言わんばかりに。
でも、それでも。
貴方の愛は世に残り続けるのだから、
貴方だけはきっと報われるのでしょう。

8/2/2025, 5:52:56 AM

8月、君に会いたい
魚面の夢を見た。
すぐ上には水面。
足元には玉状の石の群れ。
大昔、川に落ちた時の夢。
確かこのあとすぐに引き上げられて、それで。

溺れていた記憶を見ていたというのに焦りはない。
エアコンの効いた涼しい部屋の中で、
俺はこれ以上ないくらいの平穏を保っている。
枕元の時計は2:36を指す。
まだまだ夜中だ。
カーテンを除けてみればぽっかりとした月が浮かんでいる。
まるいまるい、魚の目みたいにまるい月。
起きているのに夢を見ている。
夢を見ているというよりは、これは。
夢に見ているのか、あの日の情景を。
溺れた恐怖と焦りに勝るほど美しかったあの景色を。
揺れる水面。
流れる透明な水。
周りを泳ぐ小魚たち。
そして、目の前のあの大きな魚。
皮膚をぱくつくでもなく、逃げるでもなく、俺の目の前にいた。
あれから何年経っただろう。
鮮明に思い出せば出すほどまるで恋のように焦がれるのだ。
まだ、生きているのだろうか。
あの大きさならば、鳥にも狙われることは少なかろう。
もし、いまだに生きているのならば。
会いたい。
あの溺れた夏のように。
あれに出会った8月の川の中で。

7/31/2025, 11:42:16 PM

眩しくて
外が眩しい。
朝日が昇ったらしい。
傾いた雨戸の隙間から、閉まりきらない障子から日が差す。
何かの鳥が鳴いている。姿を見たことはない。
少しの明かりが自分の睡眠には猛毒だった。
質の悪いヘッドホンから聞こえる歯欠けの音楽は、
結局睡眠導入の意義を果たさなかったようで今日も徹夜だった。
ヘッドホンでもかき消しきれない話し声が更に安眠を妨害する。
寝ても起きても結局は気狂い共に害される日々。
外に逃げたところで行き先はない。
灼熱の夏の陽気と、耐え難い視線に倒れて終いだ。
そうなりかけたのを、よく覚えてる。ましてや今は病み上がりで。
朝っぱらから片割れに理不尽にも八つ当たりで怒鳴られ
もう片割れには神経を逆撫でされ続ける。
そんなクズ二匹の血を継いで狂った者の娘の私はもはや獣で
人権なんてのも尊厳なんてのも存在はせず、
あの片割れと同じように馬鹿の一つ覚えで
神経の逆撫でしかできない。
もはや死ぬしかない。
他人様の基本的人権の尊重を害さぬように
一家全員殺して死なねばならない。
しかしそんな度胸も覚悟もクソもなく。
害獣五匹はのうのう生きている。
外が眩しい。
生きるお金には困らない人たちが。
ゲームが楽しい人たちが。
好きな本を、字を読んでいられる人たちが。
愛したペットを最期まで正しく看取れる人たちが。
ちゃんと絵を描いていられる人たちが。
しっかり人と話せる人たちが。
友達がいる人たちが。
逃げられる人たちが。
泣ける人たちが。
怒れる人たちが。
夜寝れる人たちが。
出かけられる人たちが。
眩しくて羨ましくて恨めしくてしょうがない。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ぜんぶじつわ
 いまも

7/30/2025, 7:47:25 PM

熱い鼓動

Next