大狗 福徠

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7/26/2025, 3:18:48 PM

涙の跡

7/25/2025, 8:21:19 PM

半袖
貴方は半袖を着ない。
貴方の傍らにはクッション。
もう片方にはブランケットを兼ね備えていつだって眠りこけている。
指定の真っ白なカーディガンを着て、
伸ばしっぱなしの髪を垂らして、
大きな黒縁メガネをかけた貴方に肌を見せる隙なんてない。
ぼんやりとした大きい目はうつらうつらと彷徨っている。
厚いまぶたは今にも閉じてしまいそうで。
どうか眠らないでと心のなかで嘆願する。
眠った貴方には隙が出来てしまうから。
カーディガンの下の制服、その下の素肌。
真っ白な肌に刻まれる無数の傷跡。
夏にはインナーを着れない貴方。
どうかまだ眠らないでいて。
半袖を着れない貴方。
冬まで眠らないでいて。
その隙を知るのはあたしだけでいいから。

7/8/2025, 1:51:37 PM

あの日の景色

7/8/2025, 6:05:50 AM

願い事
寝ぼけ眼を何度も擦り上げ夜明けを待つ。
貴方はこない。
逢瀬はありえないと知りながら。
ひらひら揺れる笹、七夕飾り。
ハラハラとこぼれる心、感情。
蒸し暑くてじっとりした風が頬を撫でる。
吹き出る汗では、こんな体では、手では、顔では、
貴方を引き止められない。
ここにいない貴方。
もう会えない貴方。
私以外を選んだ貴方。
願いは醜い。
貴方だけが、幸せでありますように。

7/4/2025, 2:55:18 PM

青い風
濁りきった曇天の空。
泥濘む足元。
不明瞭な視界に小さな雨粒がチラチラと映り始めた。
あたりに屋根はなく、閑散とした瓦礫の山が広がっている。
ここが何処だかは知らない。
自分が誰だかも知らない。
世界に何が起きたのかも。
気づけば埃と瓦礫の下で蹲っていた。
人らしき影は辺りに一切として見えず、
肉片と赤黒い液体が潰されたように飛び散っているばかりだった。
飢えて倒れては散らばる肉片を貪りまた進むことを繰り返す。
雨はいよいよ本降りとなりそうで、
瓦礫でも積んでバラックでも作ろうかと思案したその時。
微かな物音が聞こえた。
おれ以外の何かがいる。
慌てて辺りを見回すが、雨で何も見えない。
もし、もしそれが敵対していたら。
自分より大きくて、ずっと強かったら。
不安ばかりがよぎる。
だが、そもそも音が聞こえたという確証も、
何かいるという確証もない。
思考に脳のリソースを振り切り、不安を捨て去ろうとする、が。
今度は確かに、がらがらと大きな音が聞こえた。
瓦礫の崩れる音。
ここには瓦礫の山を崩せるほどの力を持った何かがいる。
思い至った瞬間に、弾かれたように走り始めた。
気づかれてはならない。
できる限り遠くへ行こうとして回した足が絡まる。
途端に制御を失って倒れ込む体。
同時にべしゃりと大きな音がなった。
がらがらという音が止む。
間違いなく気づかれた。
何かがこちらへパチャパチャと音を出しながら近づいてくる。
怯え竦んだ体は立ち上がることもできないくせに
一丁前に振り返った。
黒い影が雨の向こうに見える。
恐らくは、おれの腰程度。四足歩行のなにか。
濡れることも厭わずにひたすらに近づいてきたそれは・・・
多分、犬だ。
ぴょこんとこちらを向いた三角の耳。
ふわふわした尻尾はゆらゆら揺れていて、
長い鼻はふすふすとこちらの匂いを嗅いでいる。
まあるい目がこちらを見ている。
こちらを襲う気はないらしく、
そのままぺたんと目の前に座り込んだ。
犬は、人類の一番最初のパートナーらしい。
この子は、おれと一緒に来てくれるんだろうか。
触れてみようと差し出した手をじっと犬が見つめる。
それが自分に差し出されていると認識した瞬間、
ぱぁっとその顔が輝き始めた。
ついでに尻尾が切れんほど揺られている。
もともと人と一緒にいたのだろうか。
完全に耳を下げ撫でられる体勢に入ったそれに怖怖と触れる。
気持ちよさそうに大人しく撫でられるそれ。
よく見てみれば体は痩せ細り、汚れきっている。
放ってはおけない。
撫でられていたそれを抱きしめてみる。
はっはっと息をしながら、尚の事嬉しそうに尻尾を振る。
そんな事をしているうちに雨は止んでいた。
頬を気持ちのいい青い風が撫で、濡れた体を乾かしていく。
目の前のその子に向き直り、問いかけた。
  「おれと、一緒に来てくれる?」
             「わんっ」

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シェパードの気持ちで書きましたが中型から大型ならどんな子でも当てはめられると思います。
小型犬はおそらく描写に噛み合わなくなりますが、入れても問題はないはずです。
皆様のお好きな犬種を当てはめてみてください。

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