大狗 福徠

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遠雷
輪郭までもがとろけてしまいそうな、長い長い雨の中。
ざあざあ振りの外には目もくれない貴方がいる。
その目はいつだって虚ろで、真剣で。
相反する感情を発露させたその瞳が私は大好きだった。
その目は、貴方の象徴であり、まさしく私の恋の象徴だった。
筆を取る。
絵の具を溶かす。
キャンバスに色を付けていく。
ひとつひとつの動作が洗練されていて、
美しいなんてそんなものじゃないくらいだった。
遠くで雷が鳴っている。
貴方はわざわざこんな雨だらけの街に越してきて、
雨ばっかりを描いていた。
私の恋の象徴は、貴方の愛の象徴だった。
貴方は、雨を愛している。
湿気た風を、暗い空を、重い空気を。
叶わない恋を、お互い背負い続けている。
私も貴方も、この気持ちを世界に打ち明けずに死んでいく。
遠く遠くで雷が鳴っている。
私達のように。
出会うことはないと言わんばかりに。
でも、それでも。
貴方の愛は世に残り続けるのだから、
貴方だけはきっと報われるのでしょう。

8/23/2025, 4:39:37 PM