さらさら
笹の葉、さらさら
粉雪、さらさら
砂、さらさら
小川、さらさら
雪が降っていると言うのに、
辺りは心地よい暖かさを保っている。
降り積もった粉雪の奥には小川が流れていたらしく、
足を冷ややかな水が通り抜けていく。
途方もない天の上から流れ行く砂は、
星が砕けたかと見紛うようほどに光り輝く。
七夕の笹飾りが頬を撫でる。
まるで季節感のない夢。
しかしそれらは余りに現実的で、
季節のある現実こそが夢なのではないかと私は思った。
春、夏、秋、冬。
複雑に入り乱れて、しかして調和しているこれらは西洋の極限の美とはかけ離れた美しさでこちらを圧倒してくる。
私ばかりが場違いであった。
砂に手をかざす。
当たり前のように、砂は手に当たって、
その軌道を変え手の上に堆積してまた流れ去っていく。
小川のせせらぎを足で堰き止めようとする。
足の隙間から流れ出て行くばかりである。
積もった粉雪は触れずとも溶けてゆく。
笹飾りを省こうとも、何もが私を気に留めない。
事の顛末はどうにも私程度では変えられぬようだった。
さらさらと流れ行くものどもにつられ消えゆく記憶を、魂を。
ただ眺め項垂れることしかできず。
どうにも事の顛末は変えられぬのだった。
これで最後
幾度となくあなたさまへ会いにこの土地へ来ました。
あなたさまはいつでもそこにいてくださいました。
夕暮れでも、丑三つ時でも。
凛として、背を張って。
己が己を恥じることなど一切なく、誇らしげに。
だというのに嫌らしさはなく、
頼らしいその背を見つめるばかりでありました。
わたくしはもうここへは来られません。
あなたさまも、もうこの土地にはいられませんでしょう。
あなたさまは、ソメイヨシノ。
中を虫に食い破られて、朽ちることただ待つのみ。
わたくしは、そんなあなたさまに一目惚れをした愚かな鶴。
実らぬ恋を侍らせて、独り身を貫いた愚の骨頂。
己のことですから、もう死期が近いのはよくわかります。
ずっとお側にいた身ですから、あなたさまの死期が近いのも。
ですから、どうか。
これで最後にございます。
あなたさまの側で、永遠に、共に眠らせて頂きたいのです。
歌
真夜中、昼間の明るさが嘘のようにとぷんと沈んだその時。
当たり前のように眠れない。
私はヘッドホンを引っ張り出してプレイリスト再生する。
何度も聴き続けて火傷のようにこびりついた曲をまた再生する。
曲目が増えることはない。
今までもこれからも同じ曲ばかりを焼き付けるのだ。
一曲目。
二曲目。
三曲目。
四曲目。
五曲目。
繰り返す度に思考は奥へ沈む。
流れに身を任せて頭は役割を放棄する。
まるで切れてしまった電球のように。
後悔ばかりが浮かぶ時間に、
その重みに潰されてしまわぬように。
俤ばかりに囲まれぬように。
心臓を掬い取って、死んでしまいたくなるから。
水のように流れて消えてしまいたくなるから。
溺死した思考に両手を組んで冥福を祈って眠るのを待つ。
手放す勇気
起きても眠ってもこびりついて離れないものはある。
その癖掴んでも水の様にすり抜けていく。
君はずっと私のなかにいる。
一生、きっと死ぬまでだろう。
別に悔しかないんだけど、いや悔しくはあるんだけど。
そんなに残ってくれるなら
もうちょっと生きててくれてもよかったのになー、みたいなね。
まあ過ぎたことは戻らないし
水をこぼした布団は乾かないんだけど。
どうしてもどうしても君は私に寄り添ってやると聞かん坊なので
手放すことを手放したよ。
これからも一緒だぜ兄弟。どっちも女の子だけどね!!
光り輝け、暗闇の中で
己の輪郭だけが薄らと浮かび上がっている。
辺りは真っ暗で上も下も分からない。
水が張り巡らされているように感じる無重力。
取り残されている。
解けない問題を飛ばしたときみたいに。
上手くできなくて辞めたギターみたいに。
やらなくなったゲームみたいに。
ひとりぼっち。永遠に?
それでも手が動く。
足が藻掻く。
目は前を見据える。
頭が回る。
心臓が、鼓動をやめない。
ひとりぼっちで生きている。
いつの間にか地に足がついていた。
手は固く握りしめられている。
目は進むべき道をとらえた。
思考は生きるために巡っている。
心臓が、孤独であることを諦めさせてくる。
もう進めないわけじゃない。
取り残されない力を思い出した。
解けない問題は解けなかった問題になった。
ギターは楽しかった記憶とともに寄り添っている。
ゲームは目の前で起動している。
薄らと浮かび上がっているだけだった己の輪郭は、
生きていることを主張するように。
暗闇の中で光り輝くように、存在を肯定していた。