大狗 福徠

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さらさら
笹の葉、さらさら
粉雪、さらさら
砂、さらさら
小川、さらさら
雪が降っていると言うのに、
辺りは心地よい暖かさを保っている。
降り積もった粉雪の奥には小川が流れていたらしく、
足を冷ややかな水が通り抜けていく。
途方もない天の上から流れ行く砂は、
星が砕けたかと見紛うようほどに光り輝く。
七夕の笹飾りが頬を撫でる。
まるで季節感のない夢。
しかしそれらは余りに現実的で、
季節のある現実こそが夢なのではないかと私は思った。
春、夏、秋、冬。
複雑に入り乱れて、しかして調和しているこれらは西洋の極限の美とはかけ離れた美しさでこちらを圧倒してくる。
私ばかりが場違いであった。
砂に手をかざす。
当たり前のように、砂は手に当たって、
その軌道を変え手の上に堆積してまた流れ去っていく。
小川のせせらぎを足で堰き止めようとする。
足の隙間から流れ出て行くばかりである。
積もった粉雪は触れずとも溶けてゆく。
笹飾りを省こうとも、何もが私を気に留めない。
事の顛末はどうにも私程度では変えられぬようだった。
さらさらと流れ行くものどもにつられ消えゆく記憶を、魂を。
ただ眺め項垂れることしかできず。
どうにも事の顛末は変えられぬのだった。

5/28/2025, 10:40:19 AM