大狗 福徠

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3/18/2025, 10:20:33 AM

大好き
私としては、本当にあなたのことを愛してた。
うん、愛してた。過去形ね。
貴方はさ、毎日恐怖と隣り合わせで震えたことはないでしょ?
心臓を引っ掻かれるような慟哭にも、
聞こえない叫び声を聞いたこともないでしょ?
それで多分、私の声も聞いてなかったでしょ。
だから私、貴方を捨てることにしたの。
ミニマリストってやつ?
いらないのはほら、捨てなきゃだめじゃん?
私ね、色んなものが大好きなのよ。
水族館行くの好きだったでしょ?
行っただけで大喧嘩しても機嫌直してたの便利で良かったでしょ。
あとは本読むのも好きだよね。
部屋ん中、本で溢れてて足の踏み場無くって怒ってたよね。
おしゃれも好き。
あなたはいつも機嫌悪くしてたよね。
自分より目立つな、だっけ?
被害妄想の激しさで今期の覇権取りに来てる?とか思っちゃった。
あなたその言葉大好きだよね。
私、ううん、あたしね。
あたしのことが大好きで大切なの。
だからね、酷い貴方を捨てるのよ。
分かるでしょ?
貴方も自分が一番好きだもの。
一緒だったのよ、あたし達。
だからばいばい!
どうかあたしの知らない遠くでのたれまわって枯れ果てて!

3/17/2025, 11:57:40 AM

極彩色の中に埋もれる。
頭一つ抜きん出る真黒の私は、溶け落ちていた。
棺桶を焼く炎よりも、余程熱い36.4度が襲い来る。
私は、溶け落ちていく。
炙られた蝋燭のように。
放り出された氷のように。
私は、打ち捨てられている。
抜きん出た黒は薄れ濁って極彩色を穢していく。
誰も彼もが私を掬い取り濁る。
私の意思などはなく、身を千切られるだけである。
私は、
夢が覚める。
同じ夢。
変わることはない。
活動を始めて数年。
何時からかあのような夢を見る。
気にすることはない。
気にしてはいけない。
筆を取る。
描く必要がある。
私だけに映る極彩色を。
私だけ、私だけが映し出すのだ。
夢の極彩色がにじみ出る。
現実に干渉されている。
思わず塗りつぶしたその色は、その色は夢で見た真黒だ。
筆を落とす。
真黒が広がる。
溶けるように。染み込むように。
熱で焼かれ硬くなっていく。
打ち捨てた真黒が極彩色を汚す。
願望であった。
誰かの心に残りたい一心だった。
心を締め付けたかった。
体に染み付きたかった。
夢となっても叶いやしない。
残ることはできなかった。
染み付くことはできなかった。
締め付けることはできなかった。
叶わぬ夢ならば。
叶わぬ夢であるならば。
知らないままで良かったと、極彩色に真黒をぶち撒けた。

3/16/2025, 12:17:41 PM

花の香りと共に
己の人生のすべてを見直す。
気づけば1人で赤点ばかりを取っていた。
気づけば周りには誰もいなかった。
惰性で生きている。
死体が喋っているようだった。
私は伽藍堂だった。
気持ちだけの花と共に、また貴方の前へ立つ。
貴女は私を気にもとめない。
声を発さない。
気づくことはない。
死体が死体に花を贈っている。
枯れることのない、死ぬことのない造花を。
帰り道、己の人生のすべてを見直す。
まだ赤点ばかりを取っている。
貴女さえももういない。
死ぬ気力だけが足りないまま生きている。
喋ることもない。
空虚を体現したようであった。
ただ一つ、この瞬間に違うのは。
貴女の愛した花の香りが共にあることであった。

3/15/2025, 10:42:08 AM

全身が湧き立つ。
皮膚を内側から撫でられるような、
神経を舐られれているような気の遠くなる感覚がする。
強い前後不覚に襲われる。
立っているのがやっとなほどだった。
化け物と対峙している。
そう錯覚した。
目の前にいるのは間違いなく人間なはずだ。
一切として話が通じないことを除いて。
あまりにも当然のように気の狂った言葉を発するものだから、
俺が異常なのかと疑うほどだった。
目の前にいるのは祖母、だと思いたかった人。
今も不機嫌そうに母への暴言をたれている。
その子供である俺の前で。
今までは認知症でおかしなことを言っているのだと思っていた。
そうであれと願っていたのかもしれないが、
そんな期待は打ち破られた。
到底人間だと思えなかった。
目の前のそれは完全に化け物だ。
殺してしまおうと思った。
関わりたくないと思った。
黙らせようと思った。
近づきたくないと思った。
結局それはひとしきりゴミに近づく行為をした後消えていった。
それから毎朝、起きるたびに心がざわめく。
あの化け物がいよいよ死んでくれやしないかと。

3/14/2025, 6:45:54 AM

透明
草臥れた体で水中へ沈む。
深く深く、澱みさえ無い奥底へ身を委ねる。
沈むたびに透明へ近づいているような気がする。
己の中の澱みを吐き出す。
真黒に染まっては薄れ消えていく。
繰り返し、繰り返し、草臥れた体が再び色を持つまで。
醜い色に染まったならば、その身を起こし水から上がる。
透明であることは美徳だ。
何ものにでも合わせ、同調できる。
然し、それでいては己がない。
私は美徳では生きて行けない。
くすんだ色のついた私は、しかして再び己を持った。

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