帰り道の玩具屋の前で何時も私は立ち止まる。
ショーウィンドウの中には、
沢山のかわいらしいおもちゃ達がいる。
その中の、一番隅に追いやられた子。
その子のためだけに私は今バイトをしている。
他のおもちゃに隠れてよく見えなかった値札は恐らく5桁を超えている。
それが売れ残った理由なんだろう。
同じ種類の子も何体か残っていた。
ショーウィンドウのあの子含めて、その子たち全員を迎え入れるために今まで奔走してきたんだ。
一等素敵な君。
今日は立ち止まるだけじゃない。
もう十分なまでに稼いできた。
みんなを丁寧にカゴに並べてレジへ連れて行く。
こない間に値引きされていたのだろう。
思ったよりも安かったこの子たちの頭を撫でながら家へ向かう。
ようやく家に着いて、改めてみんなを眺める。
ああ、さいっこうにかわいい!!!!
真夜中、そろそろとベッドから抜け出したら、
手当たり次第に本を引っこ抜いて、
卓上ライトをかっさらってベッドに戻って。
掛け布団に潜り込んで自分の体と卓上ライトで空洞を作り出して。
そしたら飽きるまで本を読んで。
ちゃんとジャンルごとに分けたから適当でも大体は冒険記の本になってる。
そうやってしてたら、だんだん自分も冒険してる気がしてきて好きなんだ。
僕は外へは出れないからこうしてる。
体が弱いのはどうしようもないけど、それで諦めてやれるほど可愛い僕じゃない。
精一杯抗って、外のことを考えて、いつかの未来に期待するくらいの可愛げはあるけれど。
ほんとに外を歩いた人たちの本。
洞窟へ潜ったり、山へ登ったり、森を開闢したり、
今の僕には到底できないことを見れる本。
今日も見るしか出来ない外を夢に見れるように本を眺め続ける。
記憶に強く残ったものを夢に見るなら、今日だって外の夢を見れるはず。
もし夢に見れたら、そうしたなら。
僕は嬉々としてまた冒険するんだ。
今日も今日とて一輪の花を添える。
窓際に並ぶそれらは何も言わずこちらを眺める。
私も何を言うでもなくそれらを眺める。
しばらく互いに眺めあって満足したあと階下に向かう。
いつものように夜の仕度を終わらせる。
ベッドの毛布に挟まりこみ、明日をどうするか考える。
ギリギリの精神状態で運営されている私の脳は碌な思考を弾き出しはしないが、この考える工程をやめてしまっては二度と社会へ戻れやしない気もする。
私とて考える葦なのだ。
尊厳程度のものはもう二度と失いたくはない。
二階の窓際の、日に焼けてセピアになった花々を思い出す。
恐らく私も今ああなっているのだろう。
日が暮れていくのを止められぬように色褪せたものは元には戻せない。
私が殺した花々を私は救えやしないのでその詫びに花を供え、そしたまた花が死ぬ。
一番最初に供えた理由は忘れたが、医者が言うにはそれが療養を終えるにあたって一等大切なものらしい。
大方何かへの献花だったのだろうがその相手が思い出せない。
飼っていた動物か、己の家族か、はたまた自分自身か。
今日も今日とてわからぬままに一輪の花の犠牲を重ねた。
人はだれでもま法が使えるのだとぼくは思っている。
お料理でにっこりにするま法。
メイクでお顔を変えるま法。
文字で人をびっくりさせるま法。
お洋服ですてきにかえちゃうま法。
言葉でおこらせるま法。
凶器で怖がらせるま法。
人によってできるま法のとく意下手はかわってくる。
でも、その人の好きなことととく意なま法はちがう。
ぼくのおばあちゃんはお料理が好きだけど良く焦がしちゃうし、
ぼくの友だちは走るのが好きだけどあんまりはやくない。
・・・ぼくには好きなこともとく意なこともなくて。
ぼくだけなんにもま法が使えないんだ。
自分でお洋服を選んでもぐちゃぐちゃだし、
何かを読んでも見ても良くわかんない。
動くのも作るのもできなかった。
今日もどなられる。
おかあさんは、ぼくを悲しませるま法がとく意だ。
今日もなぐられる。
おとおさんは、ぼくをきずつけるま法がとく意だ。
今日も閉じ込められる。
おにーちゃんは、ぼくを怖がらせるま法がとく意だ。
ぼくは、ぼくには何ができたろう?
いたい体を押さえて、
どなり声が反きょうする頭を押さえて、
真っくらやみの中でちぢこまる。
僕にできるま法。
・・・・・・・・・・・・・あった。
一つだけある。あるじゃんか!!!!
とっても簡単なのが。
みんなよろこぶすっごいま法が!!!!!
学校の帰り道。
いつもの帰り道だけど今日は違うんだ。
皆へのま法。
とびきりすごいま法!!!!!!
道の途中にあるおっきな池。
むずかしくてよめない注意書きをむしして柵をこえて。
池に飛び込む。
水の冷たいかんかく。
足から沈んで行くかんかく。
いきができなくなって。
沈んで。
ぼくのま法。
貴方の居ないこの場所に貴方が一等愛していた虹が上がる。
貴方は世界の色を愛していた。
道端の草の色でも、
そのあたりに落ちているような石の色でも、
ただの蛍光灯の明かりの色でも。
「空はいつでも同じ色がない。あれはこの世で最も色の自由なパレットなんだ。」
そういうようなことをよく言っていたのを思い出す。
生憎、私は1型2色覚(赤色盲)というもので
青と黄色くらいしか見えなかったが。
それを貴方は黄色と青を感じる事に特化した素晴らしい目だというものだから
可笑しくって仕方が無かった。
それが私にとって一等嬉しかったのも含めて
可笑しくって仕方が無かった。
今日は貴方のいなくなった日。
棺のあなたへ黄色のマーガレットと青の薔薇を贈る。
私にとっての虹を少しは共有してやろう。
今度は色覚調整眼鏡をかけて虹を見る。
七色の、いつも貴方と見た虹が橋のように架かっていた。