「星空の下で」
窓を開ける。夜の特有の風が入ってくる。
カーテンが揺れ、自分の髪の毛も揺れる。
目に入って少し痛かった気もしたが、痛覚などとうの昔に忘れてしまったことを思い出す。
ベッドの上に置いてあったシーツを掴み、ベールのように頭に被せる。シーツは自分の足元まであった。
ずりずりと引きずりながら空いた窓に腰掛ける。チラリと下を見て見ると、、、特に何もなかった。
今夜はとても綺麗な夜空が広がっていた。
この場にこの部屋の持ち主…もとい彼がいれば、私を外へ連れ出して一緒に眺めようと言ってくるのだろうが。
生憎、それともタイミングが良かったのかもしれない、彼がいなければ、止める者はいないから。
外へ向かって上半身を傾けると、重力に逆らうこともなく落ちていく。だが地面にぶつかることはなく、地面から2メートル程の距離でぴたりと体は止まっていた。
腰からは、蝙蝠の羽のようなものが生えていて、パタパタと動いている。
空中で体を動かし、羽を動かしながら今よりも高いところへ飛ぶ。
星空の下で、一人の吸血鬼は佇む。
言葉は無く、ただそこに在るだけの存在のようだ。
一方その頃、部屋の持ち主は困惑していた。
トイレから戻ってきたら、窓は空いてるしシーツが無かったからだ。
「大切なもの」
私は、彼を傷つけ過ぎてしまった。
傷つけている自覚がなかった。
いや、彼が傷つけてしまうと分かっていたのに私は見て見ぬふりをしていた。
彼は人間ではなく吸血鬼だ。それ故に、人よりも力が強く人を殺すことになんの抵抗も抱かない。
まさに冷酷そのものだった。
だが、彼は自分の在り方を否定してしまった。自己嫌悪と言うには生温く、その「否定」という名の自己陶酔にも似た感情は、もはや誰にも理解はできない。
私は愚かだった。
そんな彼を理解しようとしたのが間違いなのだ。彼を理解した気になって、彼を赦そうとした。だが彼はそれを拒んだ。
怪物が赦されるわけがない。赦されてはならない。赦されてしまっては、私は私を認めることになるから。と、そこで私は気づいた。
彼は自分を否定し、自分を守っていたのだ。
自分のことを怪物だと思っていなければ、自分が自分でいられなくなる。私は吸血鬼で、愚かな怪物。それ故に赦されてはならない。きっと神様には私のような愚者は赦されない。
嗚呼、彼は狂っていた。助けれるわけなどなかった。
彼がそれを望まないから。
私と彼との距離があまりにも大き過ぎて気づけなかった。
貴方を大切にしようとしたことは、私のエゴだった。
「エイプリルフール」
今日は2024/04/02ですよ
「ないものねだり」
ずるい。
ずるい。
ずるい。ずるい。ずるい。ずるい。ずるい。
あぁ、彼奴はいつもそうだ。
私は愚かな怪物なのに、自分は戦場で活躍した武人だと?
同じ英雄から別れた二つの側面。
王として国を治めた彼から生まれた側面が自分。
武人として、信仰者の面から生まれたのが彼奴だった。
神を信じ、国のために戦った。
なんて素敵なのだろうか。英雄として恥じるべきところなど何もない。なにもない筈なのに。彼奴は、あの男は!
あろうことか後悔をしている。
なにを後悔することがある?貴様は全て手に入れているだろう
国のために狂い、戦い、そして殺された私は見向きもされず化け物などと言われ、貶され、そしてその呪いを私だけに背負わせたくせに。
貴様は英雄としての偉業をもった「私」のくせに、
なにが不満だ。なにが気に食わぬのだ。
救えなかった妻のことを憶えているくせに。
私には、その記憶さえ、忌々しい怪物としての記憶に塗り替えられてしまったのに。
「バカみたい」
「わたしは、おおきくなったら、くにのために__」
またこの夢かと、大きくため息をつく。
目の前には己の幼い頃の姿。
目を輝かせ、曇りの一つも見せぬ瞳が今の私を逃さない
子供とは時に残酷なまでに純粋なものだと思っている。
夢を追いかけ、呆れるほどに自分の夢を叶うと信じて疑わない。
「…なぁ、わたし。おおきいわたしはくにをすくえた?」
ニコリと笑う。
左目は殴られてできた青あざ、右足は折られ、まともに歩けもしない。
「…バカみたいなことを聞くな。不快だ。」
目の前にいる子供の頭を右足で思い切り蹴る。
足に嫌な感覚が残る。
子供は頭から血を流し、目の焦点が合っていない。
夢から醒める。気分が悪い