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「大切なもの」


私は、彼を傷つけ過ぎてしまった。
傷つけている自覚がなかった。
いや、彼が傷つけてしまうと分かっていたのに私は見て見ぬふりをしていた。


彼は人間ではなく吸血鬼だ。それ故に、人よりも力が強く人を殺すことになんの抵抗も抱かない。
まさに冷酷そのものだった。

だが、彼は自分の在り方を否定してしまった。自己嫌悪と言うには生温く、その「否定」という名の自己陶酔にも似た感情は、もはや誰にも理解はできない。


私は愚かだった。
そんな彼を理解しようとしたのが間違いなのだ。彼を理解した気になって、彼を赦そうとした。だが彼はそれを拒んだ。
怪物が赦されるわけがない。赦されてはならない。赦されてしまっては、私は私を認めることになるから。と、そこで私は気づいた。
彼は自分を否定し、自分を守っていたのだ。


自分のことを怪物だと思っていなければ、自分が自分でいられなくなる。私は吸血鬼で、愚かな怪物。それ故に赦されてはならない。きっと神様には私のような愚者は赦されない。



嗚呼、彼は狂っていた。助けれるわけなどなかった。
彼がそれを望まないから。
私と彼との距離があまりにも大き過ぎて気づけなかった。

貴方を大切にしようとしたことは、私のエゴだった。

4/2/2024, 2:26:08 PM