「何きーてんの?」
ソファーにちょこんと座る彼女の腿の上にはスマホ。スマホからは有線イヤホンが伸び、彼女の両耳に刺さっている。有無を言わさずに左側に座り、エルと表示のある方のイヤホンを自身の耳にさした。
「DAYBREAK FRONTLINE」
「…夜明けの最前線、か」
軽快なテンポ、機械的な声。未来に希望を見出せそうな、彼女らしいのに全く彼女に似合わない。なんとなく、そう思った。
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参考/作業用BGM
『DAYBREAK FRONTLINE』
Orangestar 様 feat.IA
昔はよく悪夢を見た。過去形だ。
一口に悪夢といっても様々だろうが、私の場合は人に殺されることを指す。刃物で刺されたり、銃で撃たれたり、食べたものに毒が入っていたり。思い返してみて自分自身でも思うが、悲劇のヒロインもいいところで辟易する。だが、実際に見るのだ。仕方ない。そして言っておくが、あくまで私は一般市民だ。
最初は殺されなかった。閉鎖的空間で、追いかけ回されるだけ。それでも起きた時には脂汗をかいていた。それがいつからか殺される夢に変わっていった。毎度毎度、死んだ瞬間に目覚めるから後味が悪い。
それが、ゆりと暮らすようになってからパタリと見なくなった。そして今日、なぜかまた撃たれた。だが、その瞬間に現実に戻ることは叶わなかった。
あの夢の続き、もはや灼けているのように痛む傷口。こみ上げてくる鉄の匂いと味。徐々に白くなる視界。そんな中見えたのは──
魘されている私に気づいてゆすり起こす、ゆりの心配に歪む顔。
連日の冷え込みに耐えかね、我らが城にも布団乾燥機を買った。経済面を考え一台だけだが。
「これ、買ったはいいけど…どっちが先使う?」
「先使っていいよ。私別に寒くないし」
露骨、とまでいかずとも隣の彼女は不機嫌そうな顔をした気がした。機嫌取りが先か?これは。
「一緒に寝るー?」
純度百パーセントの冗談、のつもりだった。
「もちろん」
まじかよ。
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「狭くない?」
「まぁまぁ、気にせず」
成人女性二人だが、一人は相当小柄なためそこまで圧迫感はない。数分もしないうちに、規則正しい寝息が聞こえる。
「ぉかー、さん…」
「…あったかいねぇ」
多少の苦笑と心地よさ。
未来という言葉が嫌いだ。
卒業文集で学年全員将来の夢について語ったのに、自分だけ過去を振り返るくらいには。
ようは、うじうじしている自分が好きなのである。明るい陽の光を浴び、素敵な未来を歩む…なんて妄想は必要ないんだ。私にとって。
卒業文集のテーマがただ一人だけ違った。書いたのは今では生活を共にする想い人だった。
(筆者睡眠不足深刻。頭脳無廻転。良案非思案。本日小説停止。明日再投稿。大変土下座。)